授業と家庭学習のリンクが子どもの学力を伸ばす -学力向上のための基本調査2008より

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終章 今後の展望と子どもの学力を高める提言10か条/
2.イギリスの保護者憲章に学ぶ学校と家庭の連携

(2)家庭の教育力の低下が背景に

では、イギリスでのこうした授業妨害の発生原因は、どこにあるのだろうか。これについては、必ずしも客観的で正確な研究成果が出ているわけではないが、筆者が2005年の3月から9月までほぼ7ヶ月にわたりロンドン大学キングスカレッジの客員研究員としてイギリスで見聞した状況を総合すると、やはり家庭の教育力の低下が最大要因であると感じる。

その実態は、次のような3点に集約される。

[1]保護者と子どもとの関わりが支持的でなく、多くの場合に希薄化や過度の権威化、そして過保護が見られること

これについては、わが国でも同様の現象が見られる。イギリスでも、いわゆる「好きなものだけ食べたい症候群」は根強いし、テレビゲームと夜間外出はさせ放題といった家庭が増えている。そのことが、自制心がなく公共の場である教室でもわがままを通そうとする身勝手な態度となって表れている。

その一方で、児童虐待やそれほどまでに至らなくても、子どもを過度に支配したり、暴力的な言葉を浴びせかけたりする親も増えている。そこで鬱積した憤懣が、教室での暴力やいじめといった反社会的な行動となって出現している。

最近では、携帯電話を使った「ネットいじめ」も頻発している。これは、いじめをしている場面を携帯電話のデジカメ機能を用いて撮影し、その写真を学校の友だちにメールで送りつけるというものであり、著しい人権被害を引き起こして大きな社会問題となっているほどである。

[2]家庭で学習習慣を身につけさせられない保護者が増えていること

イギリスは、日本のような予備校や進学塾、そして通信添削などがない国としてよく知られている。しかし、サッチャー政権以降の学力向上政策によって、その様子も様変わりしてきた。

書店には、全国的な学力調査の対策用の問題集が数多く並べられるようになった。BBCという公共放送機関までもが、GCSE(中等教育卒業資格試験)対策用のテレビ番組を放映したり、関連教材を販売したりしている。街には、日本で有名なある学習塾がその教室の数を増やしつつある。

また、保護者は、日曜日の新聞に掲載されるリーグテーブル(国が実施する全国的な学力調査の結果に基づき、マスコミが独自集計で作成した、テストの結果に基づく学校序列表)を見て一喜一憂している。

しかし、このような全国的な学力向上熱とは裏腹に、家庭で子どもの宿題を見てあげない親や、既に述べたように帰宅後はテレビとテレビゲームに没頭する子どもを放置している親も多い。そうなれば当然のこととして、家庭学習の習慣がある場合とそうでない場合とで、子どもの学力格差はますます大きくなっていく。

[3]家庭で健康によい食事の摂取と望ましい食習慣の形成がなされていないこと

これは、ここ6年ほどの間に、有名シェフ、ジェイミー・オリバーの社会運動が契機となってますます認識されるようになってきた。イギリスでは、学校の給食も栄養バランスが悪く、健康を害する材料が使われていたことから、その改善がブレア第3次政権の公約になったほどであるが、実は、家庭の食に関する実態の方がより深刻である。

例えば、砂糖を多く含むお菓子ばかり食べている子ども、清涼飲料水ばかり飲んでいる子ども、冷凍食品ばかり食べている子どもが最近極端に増えてきている。そのことが、ある大学の研究成果として、学力低下と授業妨害の大きな要因であると証明されるほどになったのである。つまり、カルシウムとビタミンの不足が、心理的な不安定を引き起こすというわけである。

もちろんこの現象は、最近になってからのことであるから、保護者憲章が制定された当時にはなかったことであるが、家庭での食事と食習慣の見直しが、各学校で定める保護者憲章の中に書き込まれるにはそれほど時間はかからないだろう。

この他にも、家庭で子どもが無制限にインターネットや携帯電話を使うことを放任していることも、学校での望ましい情報教育を妨害する要因になっている。

このような3つの家庭教育力の低下に関わる要因が、保護者憲章の義務規定にますますの必要性を与えているといってよい。

 

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