「データで考える子どもの世界」
子どものICT利用実態調査
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◆序章 解説2◆

 冒頭で述べたように、本研究の調査対象者は発達心理学的に重要な時期にあり、仲間関係、親子関係といった対人関係が変化する時期である。とくにこの時期の仲間集団は、ギャング、チャム、ピアというかたちで質的に変化するとされており、小学4〜6年生をギャング、中学生をチャム、高校生をピアと位置づけることができる。ギャングは「徒党集団」とも呼ばれ、同じ遊びを一緒にするなど、同じ行動を共にすることで生まれる一体感に支えられる仲間集団であり、男子に特徴的といわれる。一方、チャムは女子に特徴的な仲間集団で、秘密を共有するなどして、互いの共通点を「私たち同じね」といったやりとりに代表されるような言葉で確認し合うという特徴をもつ。「同じであること」を大切にするため、集団の維持のために、誰かを仲間はずれにして結束を高めることもある。高校生になると仲間集団はピアとなるが、趣味や将来のこと、価値観などを話し合い、「同じであること」よりもむしろ他の仲間と「異なるところ」に気づき、それでもその仲間集団が居場所であることを感じられるのが特徴であり、アイデンティティを形成していく場でもある。

 このような仲間集団のそれぞれの特徴をみると、中学生の携帯電話の使い方にはチャムの特徴がよく表れているといえるのではなかろうか。チャムでは、言葉でのやりとりが重要な意味を持つ。携帯電話を楽しいものと感じ、それを用いて仲間とのメールによる「おしゃべり」を頻繁に行うことで、チャムとしての結束力が高まっていくのであろう。また、チャムでは異質なものを認めない特徴があるからこそ、もらったメールにすぐに返事をしないと、「同じ」ではなくなるという緊張感が生まれやすいと考えることもできる。

 その一方で、高校生の仲間集団はピアであり、異質なものを認める関係性に成長している。お互いを尊重し合い、さまざまなことを話し合う高校生にとって、仲間とのコミュニケーションは大切である。高校生のほとんどが携帯電話を毎日使うのは、こうした部分につながっているからであろう。しかし本来、高校生は、チャムを卒業しピアに移行しているため、そもそも異質なものも受け入れられるようになっているはずである。単にメールへの返信の早さといった行動レベルで仲間を判断しないため、ストレスは生まれづらいとも考えられよう。

 中学生の携帯電話利用やインターネット利用に関しては、学校裏サイトへの書き込みによるいじめなどの現象面が問題視されてきた。しかし実際には、彼らの使い方は仲間集団の発達段階に即しているともいえ、リスクだけを強調して指導しても、その利用形態を変えることは難しいと思われる。むしろ、もともと言葉での頻繁なコミュニケーションを重視する中学生にとっては、携帯電話を使い始めることが、チャムグループの友人とのコミュニケーションを質、量ともに増やすきっかけとなり、仲間集団の凝集性を高める可能性があるといえよう。

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