神奈川県の公立中学校の生徒と保護者に関する調査報告書

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第1部 親子関係・子育て
第1章 親の期待と子どもの受けとめ方

3.仮説

本稿においては、「親の期待」と「将来への意欲」をそれぞれ次のように定義する。まず親の期待だが、これは母親の期待に限定することにする。これまでの先行研究から母親と父親の影響力は異なった結果が示されているうえに、集計の結果、母親票と父親票は約9対1となったため、比率の異なる票を混同させてしまうことには問題があると判断した。父親票を除いても分析に耐えうるサンプル数であろう。また母親が子どもにかけている様々な期待のうち、地位達成的期待(高い地位や名誉を得てほしいという期待)を今回の指標に用いることにする。つづいて子どもの将来への意欲だが、これは将来志向(現在より将来を重視する時間選好)であるかどうか、進路目標が高い(短大・大学まで進学する意欲がある)かどうかで判断することにする。

理論仮説1:親が期待するほど子どもの将来への意欲は高まる。

作業仮説1−1:親の地位達成的期待スコアが高いほど、子どもは将来志向になる。
作業仮説1−2:親の地位達成的期待スコアが高いほど、子どもの進路目標は高まる。

理論仮説2:親の期待と子どもの自己否定感には関連があるとは言えない。

作業仮説2:親の地位達成的期待スコアと子どもが自分をダメな人間だと思うかどうかには関連があるとは言えない。

理論仮説3:親が期待するほど子どもは期待に前向きになる。

作業仮説3:親の地位達成的期待スコアが高いほど、子どもは親の期待に応えたいと思う。

理論仮説4:期待に前向きな子どもにおいては、親の期待が高いほど将来への意欲は高いが、期待に前向きでない子どもにおいては、親の期待と子どもの将来への意欲に関連があるとは言えない。

作業仮説4− 1:期待に応えたい子どもにおいては、親の地位達成的期待が高いほど将来志向になるが、期待に応えたいと思わない子どもにおいては、親の地位達成的期待と子どもの将来志向に関連があるとは言えない。

作業仮説4− 2:期待に応えたい子どもにおいては、親の地位達成的期待が高いほど子どもの進路目標は高いが、期待に応えたいと思わない子どもにおいては、親の地位達成的期待と子どもの進路目標に関連があるとは言えない。

理論仮説5:期待に前向きな子どもにおいては、親が期待するほど自己否定感は低いが、期待に前向きでない子どもにおいては、親の期待と子どもの自己否定感に関連があるとは言えない。

作業仮説5:期待に応えたいと思う子どもにおいては、親の地位達成的期待が高いほど自分はダメな人間だとは思わないが、期待に応えたいと思わない子どもにおいては、親の地位達成的期待と自分がダメな人間だと思うことに関連があるとは言えない。

理論仮説6:親子関係が良好であるほど子どもの期待への前向きさは上昇する。

作業仮説6− 1:親が子どもとスポーツや趣味などを一緒に楽しむほど子どもは親の期待に応えたいと思う。

作業仮説6− 2:親が子どもに自分の経験談を話すほど子どもは親の期待に応えたいと思う。

理論仮説1では、親の期待を受けることによって子どもの将来への意欲が上昇するかどうかを確認する。卯月(2004)によって、母親からの期待や働きかけが子どもの大学進学希望に影響を与えていることが明らかになっており、親の期待が高ければ将来志向や進路目標が上昇すると予測する。

理論仮説2は、親の期待が子どもの自己否定感に一概には影響を与えていないことを確かめるものである。子どもが自己否定感を持つか持たないかは、親の期待を一方的に受けることだけでは測ることはできないのではないかと考えた。子どもが期待を追い風にするか向かい風にするかで、自尊感情への影響も異なってくると考えられ、これについては理論仮説5で詳しく見ていくことにする。

理論仮説3では、親の期待が子どもの期待に応えたい意識を上昇させているかどうかを明らかにする。期待に応えたいと思うには、単純に親からの期待を受けていることが影響していると考えられる。

つづいて理論仮説4では、子どもの期待の受けとめ方によって親の期待が子どもの将来への意欲に異なる影響を与えるかどうかを検証する。遠山(2006)は親子関係の良好さによって親の期待と子どもの目標の関係が異なることを示したが、子どもが親の期待をどのようにとらえているのかは明らかになっていない。子どもの期待の認識によって親の期待の影響力がどう異なるのかは、検証する価値があると考える。期待に応えたいと思う子どもにとって、親からの期待は将来への意欲を高める追い風になるだろうが、期待に応えたいと思わない子どもにとって、親の期待は無関係なものか、あるいは重荷にさえなりうるだろう。

理論仮説5では、子どもの期待の受けとめ方によって親の期待が子どもの自己否定感に異なる影響を与えるかどうかを検証する。理論仮説4と同様に、期待に応えたいと思う子どもにとって、親から期待されることは自分が認められ肯定されるということであり、自己否定感は低下するだろう。逆に期待に応えたいと思わない子どもにとって、親からの期待は自己否定感をはじめとする種々の自尊感情と関連するとは考えにくい。

ここまでの仮説が支持されれば、子どもが期待に応えたいと思うことが将来への意欲や自己否定感の緩和に重要な影響をもってくることが検証される。そのため次の段階として、子どもの期待への前向きさを規定する要因を探ることが必要になってくるだろう。理論仮説6では、子どもの期待の前向きさが親子関係の良好さによって高まることを検証する。具体的には、行動コミュニケーションとして親子が娯楽を一緒に楽しむこと、会話コミュニケーションとして親が自分の経験談を子どもに話すことが、子どもの期待への前向きさを高めるのではないだろうか。前者に関しては、親子が共通の趣味やスポーツを通して時間を共有することによって、両者の意思の疎通がはかられ、親の期待を子どもが受け入れるようになると考えられる。後者に関しては、親から経験談を聞くことで親の価値観や考え方を知り、それを通して親が自分に期待する根拠を感じることで、親の期待を子どもが受け入れるようになると考えられる。

なお、理論仮説6については、クロス集計で2つの作業仮説を検証した後に、より精緻な分析を行うため、期待への前向きさを従属変数にしたロジスティック回帰分析を行う。そうすることで、子どもの期待への前向きさを規定している真の要因に接近することができるだろう。分析モデルを図1に示す。

図1 分析モデル
図1:分析モデル

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