神奈川県の公立中学校の生徒と保護者に関する調査報告書

    PAGE 13/26 前ページ 次ページ

第1部 親子関係・子育て

 第3章 中学生の「反抗」の真実の姿
       ―反抗と自立は等価か―

千田 恭平(東京大学教育学部)

  <要約>
  • 中学生の保護者に対する「反抗」は何らかの外的要因によって誘発されるものなのではないか、また近年の中学生の反抗は、「抵抗」ではなく自立を伴わない「反発」なのではないか、というリサーチクエスチョンを立てた。
  • 反抗と自立は一括りで語られることが多く、一方で反抗に影響を及ぼす要因についての研究はほとんどない。
  • 分析から、反抗と自立心にほとんど関連がない、保護者と話すことは反抗には負の、自立心には正の相関を持つ、などの知見を得た。
  • 中学2年生のことを表すのに「反抗期」という言葉を使わない、あるいは「反発期」というような別の表現を用いることと、保護者は反抗的態度を取る子どもであってもできるだけ話すよう試みることを、本稿からの社会に対する提言とする。

1.問題設定

本稿の目的は、中学2年生における「反抗」を正しく捉え直すことによって、子どもについてより正しい理解を促すことである。

中学生が保護者を無視したり、保護者に対して反発的な態度を取ったりしたとき、「反抗期」という言葉で説明する、ということが現在子どもを取り巻く環境において多いのではないだろうか。保護者に対する「反抗」というものが、人間の発達段階の1つとしてどの子どもにも訪れるものであり、その過程で自立心が身についていく、という前提を、多くの人が共有しているように思われる。

しかし、実際に間違いなくそうだと言えるのだろうか。確かに「反抗期」は多くの子どもに訪れるであろうが、「反抗」が発達段階の過程の1つとして以外の側面、例えば保護者からの教育などの外的要因によって誘発されるなどの性質を持っていると考えることもできる。また、西平(1990)は青年期の反抗を、青年期前期の親への単なる「反発」と、青年期後期の親の期待する生き方から自分の生き方への脱皮を目指す「抵抗」に理論的に分類している。近年の中学生における反抗は、「抵抗」ではなく自立を伴わない「反発」なのではないか。

このように考える理由は2つある。1つは、価値の多様化が進んでいる現代において、保護者世代が確固たる思想や信念を持つことが困難になりつつある、ということである。近年の保護者には、良くも悪くも、かつての保護者世代にあった父権主義や国家主義のような確固たる信念がないために、今の中学生は保護者を批判しても自らの立ち位置を定めることができないのではないだろうか。その結果、反抗が自立と結びつかない漠然とした反発で終わってしまうことが考えられる。そしてもう1つの理由は、「反抗期」という言葉が広く使われていることである。「反抗期」というものが発見された時代においてそれは的確な表現だったのかもしれないが、現代においては「反抗期」という言葉は広く知れわたっており、中学生自身も知っている表現であると言える。「子どもは反抗していく中で自立するようになっていく」という知識を事前に得てしまうことによって、反抗することの働きに自覚的になり、自らの反抗的な態度を「これは自立している過程なのだ」と勝手に意味付けしてしまい、逆に「反抗の中で自立していく」という働きが起こりにくくなってしまっているのではないか。

以上のような関心から本稿では、まず中学2年生の反抗と自立には明確な関連がないこと、次に保護者による教育がどのように反抗および自立に影響を与えているのかを明らかにし、最後に中学2年生段階における正しい反抗の捉え方を提示する。

2.先行研究の検討

そもそも「反抗期」とは何なのだろうか。本稿で取り扱う反抗は思春期段階のものであり、幼児期における第一反抗期とは区別され、正しく言えば第二反抗期である。第二反抗期は、『発達心理学用語辞典』によれば「それまでの両親への依存から離脱し、一人前の人間としての自我を確立しようとする心の動き」が現れる時期と言える。

次に反抗と自立に関してだが、問題設定の節でも述べたように、西平(1990)は青年期の反抗を、青年期前期の親への単なる「反発」と、青年期後期の親の期待する生き方から自分の生き方への脱皮を目指す「抵抗」に理論的に分類している。しかし、反抗と自立を結びつけて実証的研究を行った例はあまりない。深谷ほか(2004)では、首都圏の中学生を対象に行ったアンケートの結果から、親子関係が良好になったことで中学生から反抗期が消えてなだらかな成長スタイルが定着したとし、自立を促すために親は弱みを見せなければならないなどと述べられている。

だが、実際に中学生において自立心がなくなっているかどうかのデータは提示されていない。数少ない研究例として小沢(1991)があり、中学2年時の反抗を経ただけでは自立には至れないということを述べている。しかし、短大生に昔の反抗の状況を振り返ってもらうという調査方法のため、正確なデータが得られているかについては疑わしい。サンプル数も少なく、そもそも短大生を調査対象としているサンプルに偏りがあるため、一般論として語ることはできない。以上の点から、中学生を調査対象にして反抗と自立心の関係を明らかにする本研究は十分に意義があるものと考える。

それから反抗に影響を与える教育についての研究であるが、こちらも研究が蓄積されているとは言い難い。範囲を広く取り、中学生にどのような教育態度がどのような影響を与えているのか、という研究であればいくつか存在する。中学生の自己実現が父親の自己実現的生き方や母親の情緒的なサポートから影響を受けているとする小坂・山崎(2002)※1)や、親子間での相互の信頼性が低い家庭の子どもは学校に不適応な傾向があるということを明らかにした酒井ほか(2002)※2)、過去も現在も一貫して父親が家庭に関与することが中学生の精神的健康にとっては望ましいと考えられると述べた平山(2001)※3)などいくつかの研究が挙げられる。だが、保護者の教育が反抗にどのような影響を持ちうるか、についての研究はほとんどないと言ってよい。そのような点からも、反抗の背後にある教育的要因を探る本研究は意義があると言えよう。

〈注〉
※1 この研究では、自己実現の指標として「私は自分の気持ちにしたがって物事を決めることが多い」などの「自 己志向」や、「状況をあれこれ考えるよりも、率直な気持ちをだすほうが大切なことがよくある」などの「率 直な自己表現」が挙げられている。
※2 この研究では、学校への不適応傾向尺度として「学校では、みんなの中にうまく入れない」などの「孤立傾向」 や、「授業中、つまらなくなって教室をぬけだしたことがある」などの「反社会的傾向」が挙げられている。
※3 この研究では、中学生の精神的健康の指標として「よく何の理由もなく急におびえたりする」などの「神経症 傾向」、「人から指図されると腹が立つ」などの「怒り」、「人は私を十分認めてくれない」などの「非協調性」 が取り上げられている。

     PAGE 13/26 前ページ 次ページ
目次へもどる 調査・研究データ