神奈川県の公立中学校の生徒と保護者に関する調査報告書

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第3部 社会関係資本

 第1章 中学生の対人能力に影響を与えるもの
      ―保護者とのコミュニケーションと授業形式の効果に着目して―

冨永 愛子(東京大学教育学部)

  <要約>
  • 保護者とコミュニケーションをとることは、中学生の友人関係における対人能力(意思伝達力・協調性)を高める。
  • 議論や発表を行う授業を多く受けている生徒は、意思伝達力が高く、グループで協力して課題に取り組む授業を多く受けている生徒は、意思伝達力や協調性が高い。
  • 保護者とのコミュニケーションが少ない場合でも、議論や発表を行う授業を受けることにより、意思伝達力を補うことができる。
  • 保護者とのコミュニケーションが少ない場合でも、グループで協力して課題に取り組む授業を受けることにより、意思伝達力や協調性を補うことができる。

1. 問題設定

本稿の目的は、保護者とのコミュニケーションや学校の授業形式が、中学生の対人能力にどのような影響を与えているのかについて、明らかにすることである。

学校という場所は、単に勉強をするだけの場所ではない。友だちに会う場と捉えている生徒も多いことが予想される。

渡部(2006)によると、学校生活の中で重要だと思うものを1つだけ選んでもらうと、「友達関係」を選ぶ中・高校生の割合が54.9%と、他の項目(勉強19.0%、人格修養9.6%など)を選ぶ割合よりも非常に高いという結果が出ている。日本の中・高校生にとって、学校内の友だちの持つ意味が非常に大きいということが国内の各種調査からも明らかになっている。

脱近代社会の学校においては、学力以外のインフォーマルな面も、子どもたちにとって非常に大切なものであると考えられる。特に、中学生は小学生と比べて、部活動などを通して友人と過ごす時間はとても長くなる。そして友人関係の親密さも高まる時期であるため、友人との良好な関係を築くことは、学校に適応するうえでも重要であると考えられる。

では、良好な友人関係を築くうえで必要な対人能力を高めているのは、どのような要因なのだろうか。

まず1点目に考えられる要因は、保護者とのコミュニケーション量である。現代の日本では核家族が多く、近所づきあいも希薄になっており、家庭内における保護者とのコミュニケーションの在り方は、中学生の対人能力に対して非常に大きな影響を与えていると考えられる。

2点目に考えられる要因は、生徒たちが長い時間を過ごす学校の環境である。特に、一日の最も多い時間を使う授業では、友人と接触する機会が多く、中学生に大きな影響を与えていると予想される。

以上を踏まえ、本稿では、保護者とのコミュニケーションと授業形式が中学生の対人能力にどのような影響を与えているのかを明らかにするとともに、2つの要因の関係性についても明らかにしたい。なお、授業形式は、教師などによって変更が可能な要素でもあるので、その効果を分析することは、教育実践に生かしやすいと考えられる。

2. 先行研究の検討

本田(2006)において、従来のメリトクラシーに関する議論では、「学力」に基づいて高校生の間に格差が生じていることが強調されてきたと指摘されている。そして、「学力」達成やそれを通じた将来の地位達成ということが高校生の中で重要性を喪失しつつある現在、そうした従来の格差基準に代わって、対人関係およびそれに関する「能力」という新たな格差基準が浮上しつつあるという点について検討されている。その結果、「対人能力」が高い高校生は、良好な家族関係と高校内での相対的な「学力」の高さ、そして実際の友人数の多さを特徴としているという結果が示されている。

先行研究において良好な家族関係は、家庭内コミュニケーションという指標で示されているが、本稿では最初に、中学生においても保護者とのコミュニケーションが多い生徒ほど対人能力が高いことについて確認する。

ところで、友人関係を構築するうえで必要な対人能力を高めることについて、家庭だけに責任があるとは言いきれないだろう。

秋田(2009)は、深い理解と知識構築により、学力を形成する授業を創造するためには、理解を精緻にする学習が授業で行われることが必要であると指摘している。さらに、協調的に、相互に新たな見方や考え方、知識を共有するために、多様な生徒の声が教室の中で生かされる授業形態の必要性を示しており、小グループでの協働学習が有効であると述べている。

この先行研究からは授業形態が学力に与える影響について知ることができるが、学力だけでなく対人能力についての分析も必要だと考えられる。そこで本稿では、授業形式が対人能力に与える影響について分析したい。

さらに、保護者とのコミュニケーションが少ない場合でも、授業形式が対人能力を補うことができることを明らかにしたい。また、対人能力については自分の考えを相手に伝える意思伝達力と、誰とでもうまくつきあえる協調性の2つの要素を取り上げて分析を行う。

水原(2009)によると、2008年改定の学習指導要領においては、国際水準のリテラシーとコミュニケーション能力を有し、道徳的資質も高く、「生きる力」に満ちた人間像が示されている。「生きる力」については、表現力の育成や、他人と協調することも目指されており、意志伝達力や協調性に着目することには意義があると考えられる。

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