都立専門高校の生徒の学習と進路に関する調査

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第1部 総論

 第1章 専門高校におけるインプット・スループット・アウトプットの連関構造
       ―普通科進路多様校・進学校との対比に基づいて―

本田 由紀(東京大学大学院教育学研究科教授)

  <要約>
  • 専門高校では普通科と比べて生徒の中学時成績が学習積極度に影響する度合いが弱く、授業満足度に影響される度合いはやや高い。
  • 専門高校では学習積極度が自信および将来目標に影響する度合いは普通科と比べて弱い。
  • 普通科進学校では地位達成的将来目標が、普通科進路多様校では「夢追い」的将来目標が、専門高校では専門的将来目標が抱かれる傾向がある。
  • それゆえ専門高校で授業を通じて獲得される学習積極性は高校内で閉じている傾向があるが、専門高校での教育は生徒に将来にわたる「支え」を提供する効果は認められる。

1. トラッキング構造の中での専門高校の意義とその射程

高校生を対象とする近年の研究は、高校間のトラッキング構造の維持と、高校生にとっての学力メリトクラシーおよび学校生活への関与の全般的希薄化、学校外の消費文化・若者文化の重要化という変化を明らかにしてきた(樋田ほか編2000;尾嶋編2001など)。こうした中で、該当年齢層の若者の9割以上を生徒として包摂する高校という教育機関が、生徒からの関与を引き出すためには、従来の学力メリトクラシーに代わるメカニズムが必要とされるようになっている。そうしたメカニズムの1つとして、生徒にとっての教育内容そのものの意義=レリバンスを高めるという方向性が考えられる。

特に、高校と外部社会の接続、中でも高校から労働市場への移行という面では、90年代以降、新規高卒労働市場の量的縮小と質的劣悪化が指摘されている(日本労働研究機構 1998;本田2005)。それゆえ、そのような労働市場を乗り切る上で必要な装備を若者に与えるために、教育の職業的レリバンスを高める必要性が提唱されている(本田2008, 2009)。

このように、高校内部についても、高校と外部社会との接続という面からも、高校教育のレリバンスに対する社会的・研究的関心が高まりつつある。そうした関心に照らしたとき、専門高校という存在は注目に値する。日本社会における専門高校は、70年代以降、高校階層構造内での地位低下と量的比重の減少という過程をたどり、90年代に入ってからは前述のような新規高卒労働市場の変化と高卒後進学率の上昇により、いっそうその社会的機能を曖昧化させ存在感を希薄化させてきているように見える。しかし専門高校は、かつてより一貫して職業的レリバンスに重点を置いた教育内容を提供してきた教育機関である。そのような教育機関が、90年代以降の急激に変化した社会経済状況下においていかなる今日的意味を持つようになっているかについて検討することは、高校教育のレリバンスという新しい課題に対して重要な示唆を与えてくれると考える。

それにもかかわらず、専門高校に正面から着目した実証研究は限定的である。それゆえ本研究では、専門高校に焦点を絞り、むしろ普通科高校のほうを比較対照群として位置づけることにより、専門高校という教育機関の特質を掘り下げて捉えることを試みる。

このような問題関心に取り組む際に、本稿では高校のインプット・スループット・アウトプットの連関構造を明らかにするというアプローチを採用する※1。ここでインプットと見なすのは、個々の高校に入学してくる生徒の特性(学力や意識など)であり、高校にとっては所与の条件という性格が強い。それに対してスループットは高校教育の内実を意味しており、個々の高校の取り組みによって一定程度独自にコントロールすることが可能である。そしてアウトプットとは、インプット・スループットを経た上で、生徒の中にいかなる教育成果が結実しているか、特に高校生活の内部に留まらずその外部にまで波及するような成果――たとえば将来にわたる進路展望や生徒の自己意識の変化――が獲得されているかどうかを意味する。このアウトプットに対しては、スループットの影響を受けるという点では高校自身が左右できる面があるが、外部社会の諸条件――労働市場の状況や社会に支配的な価値規範など――の影響力もまた大きいため、高校がアウトプットをどれほどコントロールし得るかは経験的検証が必要な事柄である。

こうしたインプット・スループット・アウトプットに関して、専門高校では普通科高校と異なる特徴が観察されるのか。専門高校の教育にはこれらに関していかなる限界と可能性が観察されるのか。専門高校を、入学者層がほぼ同じ普通科進路多様校および入学者層を異にする普通科進学校と対比する分析を行うことにより、これらの問いを明らかにすることを本分析の課題とする。

〈注〉
※1  インプット・スループット・アウトプットという見方については苅谷(1981)を参照。

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