都立専門高校の生徒の学習と進路に関する調査

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第2部 高校入学以前の状況と学習・進路

 第1章 不本意入学者と専門教育のレリバンス

伊藤 秀樹(東京大学教育学研究科博士課程)

  <要約>
  • 専門高校への不本意入学者は、希望して入学した者に比べ、学習内容に将来へのレリバンスを認知しにくい傾向にある。しかし、同ランクに位置づけられる普通科高校への不本意入学者と比べると、レリバンスを認知しやすい傾向にある。
  • 専門高校への不本意入学者の中で、進路展望を明確に抱いている者に、学習内容の将来へのレリバンスを認知していない者が多い傾向がみられる。その理由には、行われる専門教育とは異なる方向性の進路展望を中学生時点から抱きつつも、高校間における階層構造のために、消極的な動機で現在の専門高校に入学してきてしまった者が一定数いる、ということが挙げられる。

1. 問題設定

日本の高等学校は、卒業生の進路実績に基づき各学校に学力に応じて入学希望者が配分されることで、学校間に階層構造が形成されていることを特徴とする。そのなかで、学校階層構造の底辺部に位置づけられる学校では、高校教育に対して動機づけをもたない不本意入学者を大量に抱えることで、無気力化や怠学の昂進、中途退学者の増加など、様々な困難が生じるということが指摘されてきた(門脇・陣内編1992など)。

そして、専門高校は、日本社会における強い進学志向のなかでいわば傍系として位置づけられ、学校階層構造の底辺部を占めざるをえない状況に追い込まれてきた(田中2005;本田2008)。その結果、高校教育や専門教育への動機づけをもたない多数の生徒が専門高校に入学するという事態が観察されてきた(志水1985;酒井編2007など)。

では、はたして、専門高校に入学してくる不本意入学者は、専門的な教育が授業時間の一定数を占めるその学校環境の中で、どのような経験をしているのか。本稿ではその疑問に対し、不本意入学者が専門教育がもつ将来へのレリバンス(意義)をいかに認知しているかという点からアプローチを試みる。

教育の将来へのレリバンスは、主に職業的レリバンスという形で、その必要性が叫ばれている。本田(2005)は、「学校経由の就職」が縮小し若者の教育から仕事への移行が困難化している現在において、労働市場環境を生き抜いていく若者を支えるために、教育の職業的レリバンスを高めることが必要であると述べている。そうしたなかで、専門高校の生徒たちは、その専門性の高いカリキュラムによって、普通科高校の生徒たちに比べて学習内容の職業的レリバンスを認知している傾向にある(伊藤2006)。それゆえ、専門教育には生徒たちに将来へのレリバンスを認知させる効果があることが推測できる。

しかし、専門高校に不本意に入学してきた生徒たちは、希望して専門高校に入学してきた生徒たちと同じように、学習内容の将来へのレリバンスを認知しているのだろうか。彼らは、入学した高校や専門教育の内容に不満を抱えながら、あるいは興味がない状態で、現在の高校に入学してきた。そのため、希望して入学してきた生徒たちに比べると、学習内容の将来へのレリバンスを認知しない傾向にあるのではないかと考えられる。この点は、後期中等教育の中で専門高校が果たす役割を考えるうえでも、実証的データによって一度明らかにされておかなければならないものだろう。

ただし、もし専門高校への不本意入学者が、希望して入学した者に比べて学習内容の将来へのレリバンスを認知していない傾向にあったとしても、何らかの要因によって彼らのレリバンス認知を向上させることができるかもしれない。不本意入学者の中で認知の差が生まれている要因を発見することで、専門高校における不本意入学者の学校生活をより充実したものにするための、1つの打開策を見出せる可能性がある。

では、不本意入学者において、学習内容の将来へのレリバンスの認知が促進される要因としては、どのようなものが考えられるか。本稿では、考えうる要因の中から、「進路展望の明確さ」という要因を取り上げる。というのも、専門教育に沿った形で進路展望が形成される生徒についてはもちろんのこと、専門教育に沿わない形で進路展望が形成された生徒の場合でも、本田(2008)が提唱する「柔軟な専門性(flexspeciality)」の概念を踏まえると彼らに学習内容の将来へのレリバンスが認知される可能性が考えられるためである。

「柔軟な専門性」とは、本田(2008: 76)によると、「特定の専門領域や分野、テーマを入口ないし切り口としながら、徐々にそれを隣接・関連する領域へと拡張・転換していくことを通じ、より一般的・共通的・普遍的な知識やスキル、あるいはキャリアを身につけていくプロセス」であるという。もし専門高校の生徒たちが「柔軟な専門性」を身につけているとすると、進路展望を明確に保持している生徒たちは、それが高校での専門教育とは異なる方向性のものでも、専門教育の内容の意味を拡張・転換し自らの進路展望と接続することで、専門教育に将来へのレリバンスを見出すことができると考えられる。

 以上より本稿では、専門高校への不本意入学者において、(1)学習内容の将来へのレリバンスを認知する傾向を、希望して入学してきた生徒(以下、本意入学者)と比較する、(2)明確な進路展望が形成されている生徒ほど学習内容の将来へのレリバンスが認知されているという可能性について検討する、という2点を目的とする。

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