都立専門高校の生徒の学習と進路に関する調査

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第3部 高校入学後の学校生活

 第2章 教師への信頼はどうすれば高まるのか
      ―教師生徒比と授業実践の効果に注目して―

須藤 康介(東京大学大学院教育学研究科博士課程)

  <要約>
  • 本稿では生徒が教師を信頼するには何が必要なのかを明らかにする。分析によって得られた主な知見は以下の3点である。
  • 第1に、積極的に質問や意見を言える授業、教師が個別のアドバイスや手助けをしてくれる授業、少人数授業といった手厚い授業実践が、教師への信頼を高める。
  • 第2に、これらの手厚い授業実践は、教師生徒比が小さい(つまり教師が相対的に多い)学校において行われやすい。
  • 第3に、教師生徒比が小さいことは、授業実践とは独立にも教師への信頼を高める。
  • これらの知見に基づき、教師への信頼を高める方策として、教師生徒比の改善とそれに裏打ちされた手厚い授業実践を提案する。

1. 問題関心

本稿の目的は、学校の教師生徒比と授業実践が、生徒の教師に対する信頼に与える影響を明らかにし、教師への信頼を高めるための方策を追究することである。

現在、教師への信頼が揺らいでいると言われている。マスコミでは教師の不祥事が日々報道され、藤田(2006)が指摘するように、近年導入されている教員評価制度や免許更新制も、教師への信頼の揺らぎが背景にあると解釈することが可能である。教師への信頼の揺らぎは、生徒にとっても教師にとっても社会にとっても不幸なことだろう。生徒にとっては、信用できない大人から日々教育を受けることになり、教師にとっては、常に生徒や保護者から懐疑の目で見られることになり、そして社会にとっては、教師の地位低下によって教師志望者が減り、結果的に教育の質が下がる可能性があるからである。

しかし「教師を信頼しろ!」と叫んだところで、おそらく無意味である。今必要なことは、どうすれば教師への信頼を高めることができるのかを、実証的に検討することではなかろうか。露口(2008)は、保護者が学校を信頼する要因として、教師側の誠実性(配慮や相談や理解)と充実性(PTAや行事活動の充実)を示している。しかし、教育を受けている主体である生徒が教師を信頼するには何が必要なのかは、これまでの研究において十分に実証されているとは言い難い。前田ほか(2009)では、教師への信頼が生徒の学校適応感に与える影響は、友人への信頼が学校適応感に与える影響よりも大きいことが示されている。また、本報告書の第2部第2章(高木)においても、教師のスキルを信頼することが生徒の勉強嫌いを克服させ得ることが示されている。具体的にどのような学校環境や授業実践が、生徒の教師への信頼を高めるのかを明らかにする意義は大きいだろう。

もちろん社会全体としての教師への信頼は生徒の意識のみで決まるものではないが、生徒の教師への信頼を高めることは、ひいては社会全体における教師への信頼を高めることにもつながると考えられる。というのも、生徒はいずれ社会人となる存在であるし、現在においても保護者や知人との対話を通して、教師が信頼できる存在なのかを社会全体に広めていく存在であるからである。

なお、本稿では以下の2つの理由から、分析対象を専門高校およびそこに通う生徒に限定する。第1の理由は、本調査データにおいては普通科高校を3校しか調査しておらず、信頼性のある分析結果を得るには学校数が少なすぎるという制約があるためである。第2の理由は、専門高校は教師が厚く配置されていることが多く、多様な授業実践がなされているため、教師生徒比や授業実践が教師への信頼に与える効果を分析する上で適しているためである。専門高校というとカリキュラムの特殊性ばかりが注目されるが、教師生徒比と授業実践の効果を見出すためのモデルケースとも見なせるのである。普通科高校を分析対象とした場合、教師生徒比が全体的に大きいため、「小さくしたらどうなるのか」の分析が不可能であるし、たとえば少人数授業などの授業実践は、ごく一部の教科やコースでしか行われていないため、その効果の抽出が困難である。

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