特集 「考える力」を引き出す授業―理数教科からのアプローチ―

和田裕枝

▲豊田市立堤小学校教諭

和田裕枝

Wada Hiroe

教職歴26年。教務主任。愛知教育大の志水廣教授に師事。○つけ法、復唱法を基盤とした授業づくりを進める。他校からの要請で模擬授業も行っている。

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私の実践<算数>
和田裕枝先生
愛知県◎豊田市立堤小学校

算数を通して「考えること」の楽しさを教えたい

和田裕枝先生の授業には、子どもたちを算数的な思考へと導く仕掛けが詰まっている。考えることの楽しさを教えながら「算数的」な思考へと導いていく和田先生の授業方法を紹介する。

意思表示を促して子どもの出力を高める

 教務主任として算数を教える和田裕枝先生の指導の根本には、「考えることの楽しさを教えたい」という思いがある。本来、考えるとは、ドキドキするような知的好奇心をともなう行為と考えているからだ。そして、考えることの楽しさを教えるには、一つの答えにたどり着くまでの過程が何通りもある算数が、非常に適しているという。
 「算数の学習は山の頂上を目指すことに似ています。山頂までジェット機で一気に飛ぶ子もいれば、じっくりと歩いて登る子もいます。教師は一番早く到達する方法を教えたがるものですが、間違った山に登っているのでなければ、どんな登り方でも認めていきたいです。自分で“登って”問題を解けたという実感を持つことができれば、子どもは考えることを楽しいと思うようになります」
 「考える楽しさ」を伝えるために和田先生が授業で最も重視するのが、子ども一人ひとりの“意思表示”を大切にし、その一つひとつを教師が受け止めることだ。
 そんな和田先生の授業では、子どもたちの“意思表示”が実に活発に行われている。挙手や発言が多いというだけではない。友人の発言に対して大きくうなずいたり、わからないことがあれば首をかしげたり、疑問を声に出したりする。先生は、そうした動きを見逃さない。発言を求めたり、机に近寄ってフォローしたりすることで、すべての子どもを授業に“参加”させる。
 「子どもたちの多くは、発表することが授業中の唯一の意思表示だと思っています。しかし私は、うなずいたり、声に出して『わかったぞ』と言ったり、首をかしげたりする動作の一つひとつが考えることへの意思表示だと考えています。子どもたちには、まずは、小さな動きでもいいから意思表示をしてほしいと常に伝えています」
 さらに、一人ひとりの“違い”を見つけ、「それは○○さんとは違う意見だね」「前の授業の内容をよく覚えていたね」などと、さまざまな視点で子どもたちをほめる。また、一人ひとりの理解度を把握するため、授業の最後にその日の学習でわかったことをノートに書かせる。このとき、単に黒板を写すことはさせず、子どもたちが自分の言葉で表現するように指導している。ノートは毎時間回収し、次の時間までにコメントを添えて返却する(図1)。ここで間違っている点を丁寧にフォローすれば、子どもたちは「間違っても先生は認めてくれる」「間違っていても取り戻せる」と安心し、自信のないことでも安心して書けるようになる。また、ユニークな意見を次の授業で取り上げ、子どもたちの考えが連続的になるようにしている。

図1 子どもたちのノートの例(3年生)
図表
子どもたちのノートは毎日回収し、コメントを加える。子どもたち一人ひとりの理解度を確認・フォローする大切な機会として生かしている
 和田先生は、特に年度初めの最初の2週間で、こうしたスタイルの授業を徹底して行うという。それにより、子どもたちには「どんな考えでも授業で役に立つ」という意識が根づき、間違いをおそれずに考えを述べる姿勢が身についていく。
 「子どもたちが自分の考えを“出力”する量に差はありますが、ゼロという子はいません。まずは意思表示をすることの大切さに気づかせ、子どもたちの“出力”の量を最大限に引き出したいと考えています」。

写真
写真1 うなずいたり、首をかしげたりといった小さな意思表示を認めることが、子どもたちの活発な“出力”の出発点になる

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