教育現場の挑戦 変化している授業形態

VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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時代の先を行く新たな課題へのチャレンジ

 こうした数々の実践は、どのような児童を育てているのか。
  「のびのびとした学びを通して、他校に比べて開放的で人懐っこい子どもが育っています。校内の雰囲気も温かで、ゆったりしていると感じます」(宮島校長)
  学校評価のアンケートでは、9割以上の保護者が「子どもは学校生活を楽しんでいる」と答えていることからも、いきいきとした児童の様子がうかがえる。今では不登校児童がゼロという事実も、そうした校内の雰囲気と無関係ではないだろう。
  緒川小学校の児童が進学する中学校の教師からは、「創造的な活動でリーダーシップを発揮する子どもが多い」という評価が寄せられている。青木先生は「自分で計画を立て、活動を深めていく能力が育っているのでしょう」と、胸を張る。
  しかし、課題もある。近年の児童の変化を受け、従来の取り組みは方向転換を余儀なくされているという。
  「『はげみ学習』を例にすると、以前は友だちを見て『自分も頑張ろう』と反応する子どもが多くいました。ところが最近は、『わからないものはわからない』『自分は自分』といった意識が強まっているようです」(宮島校長)
  そうした変化には、何が影響しているのだろうか。
  「やはり、家庭や地域社会の変化が大きいと思います。かつては学校の外で行われていたしつけや社会規範に対する意識が、随分と弱まってきています。恵まれた環境で育つ子どもが多いことも関係しているのでしょう」(宮島校長)
  そうした現状で個別化・個性化教育の意義をしっかり考えて実践しないと、独りよがりや身勝手、我がままといった「個性」のはき違えが出てしまいやすい、と宮島校長は懸念している。05年度から文部科学省「伝え合う力を養う調査研究事業」の指定を受けたのを機に、従来の個別化・個性化との関連性を図りつつ、集団学習における学び合いも充実させていきたいと語る。
  例えば、緒川小学校では、次のように集団と個の学びをリンクさせている。まず、集団学習に至る前に、児童に自己学習を通して「ほかの人が知らなくて、自分だけが知っている」題材をつかませる。児童はそれを集団学習で伝え合い、自分と他者との共通点や相違点を把握することで、自分なりの課題や追究の進め方などを見直すことができる。それを、次の個別学習で自主的に取り組み、結果を再び集団学習の場で話し合い、練り上げていく。最後に、もう一度個別学習に戻って課題の価値や意義を確認する―。このようなサイクルを通して、「集団での学び」と「個の学び」をより確かなものにすることができる。
  こうした集団学習と個別学習の相乗効果を高めるため、緒川小学校では、今まで教科別に分けていた研究グループを、06年度からは、「個別学習研グループ」「集団学習研グループ」「創造研グループ」「総合、O・T研グループ」と、学習形態別のグループに再編した。
  「本来、一斉指導と個別化・個性化は別のものではありません。個性を発揮するには、集団での振る舞い方を知らなくてはならない。その両方をリンクさせることで互いが深まるものと考えています」(宮島校長)
  当初、緒川小学校の個を重視した教育は、集団教育へのアンチテーゼとしてスタートした。しかし、時代と共に集団教育の中に「個」を尊重した教育が一般的になって、その意味合いは薄くなった。緒川小学校は、今、集団学習と個別学習をいかに高い地点で両立させるかという、時代を先取りした課題に、再び挑戦している。

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