特集 データでひもとく学習指導の「いま」と「これから」
かじた・えいいち

▲かじた・えいいち

◎1941年島根県生まれ。国立教育研究所主任研究官、大阪大教授、京都大教授、京都ノートルダム女子大学長等を経て、現職。教育改革国民会議委員などを歴任。著書は『真の個性教育とは』(国土社)、『教育評価入門』(協同出版)、『〈生きる力〉の人間教育を』(金子書房)、『〈お茶〉の学びと人間教育』(淡交社)など多数。

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
   PAGE 14/18 前ページ 次ページ

【インタビュー 次期学習指導要領を語る】

「ゆとり」か「教え込み」かを超えた
「確かな学力」の実現を

兵庫教育大学長 梶田叡一

PISA2006(P.4下参照)の結果が発表され、日本の生徒の「活用する力」に課題があることが改めて明らかになった。次期学習指導要領の施行に向けて、中学校ではどのような準備を進めるべきか。押さえるべき理念やポイント、学校に求められる変化などを、中央教育審議会副会長で教育課程部会長を務める兵庫教育大の梶田叡一学長に聞いた。

三つの要素が結び付く「確かな学力」

 今回の学習指導要領の改訂では、「確かな学力」の育成がモチーフとなっています。この「確かな学力」を育成するため、授業時数を増やし、現行の学習指導要領を施行するときに削られた学習内容を復活させるなどの改編が進められています。
 注意したいのは、「確かな学力」の内容です。「基礎・基本の徹底」と同義に捉えられることもありますが、それは正しくありません。「確かな学力」という言葉は、2002年1月に当時の遠山文部科学大臣が「学びのすすめ」というアピールを打ち出した際に初めて用いられました。ここでうたわれたのは、知識・理解・技能に加え、思考力・判断力・表現力、更に関心や意欲の重要性です。つまり確かな学力とは、これら三つの要素が有機的に結び付いている学力を指します図1)。

図1

2006年12月に改正された教育基本法によって、学力の重要な要素が改めて明確になった

 今回の改訂はその考え方の延長線上にあります。01年以降進められてきたバランスある学力向上の路線をきちんと理解し、検討を重ねてきた学校や教育委員会は、考え方そのものを変える必要はありません。学習内容の改編に対応すれば、それでよいのです。
 確かな学力の育成においては、「習得」「活用」「探究」という三つの学習形態が重視されています。「習得」「活用」による学力形成は、「知識・理解・技能」→「思考力・判断力・表現力」→「関心・意欲」という流れをたどりますが、「探究」はこれと全く逆の流れをたどります。
 普通の授業では「習得」「活用」によって学習が行われますが、出発点は教師が子どもに「習得」すべき知識・技能を与えることです。各教科の内容は人間がこれまでに蓄積してきた文化所産に裏打ちされたものです。そうした興味深い文化を子どもに教え、「へぇ」「なぜだろう」といった驚きや疑問を芽生えさせた上で、各自に追究させて思考力・判断力・表現力を育てる。これが「活用」に当たります。そして、知ることや理解することの楽しさから、更に関心・意欲を引き出していくのです。
 しかし、そうした学習だけでは、子どもは受け身になってしまうおそれがあります。そこで、授業に取り入れたいのが「探究」です。活動のきっかけを与えて「これはどういうことだろうか」といった自分なりの関心・意欲を引き出し、探究を通して思考力・判断力・表現力を育て、その結実としての知識・技能を身につけさせます。
 確かな学力の育成には、「習得」「活用」から「探究」への学習の流れと、「探究」から「習得」「活用」への学習の流れ、この二つの流れの連動が欠かせないのです(図2)。

図2

「習得」「活用」から「探究」への流れと、「探究」から「習得」「活用」への流れの往復活動を通じて、「確かな学力」を形成する ※梶田学長の資料を基に編集部で作図

 「活用」は、具体的なイメージとして、PISA(OECD生徒の学習到達度調査)の読解力、および「全国学力・学習状況調査」のB問題(活用)にプラスアルファを加えた内容に当たると考えてよいでしょう。


   PAGE 14/18 前ページ 次ページ
目次へもどる
中学校向けトップへ