記念特集 中学校教育のこれまでとこれから

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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「生きる力」の育成に向け 子ども中心の授業に転換

 授業の内容が濃くなるにつれ、生徒の様子に変化が見られるようになりました。1974(昭和49)年前後から校内暴力や授業の抜け出し、教師への暴力など、荒れる生徒が目立ち始めたのです。教師は授業よりも生徒指導に追われていたというのが現実で、生徒を警察に迎えにいった経験をされた先生は相当いたと思います。ただ、今と比較すると、生徒と真剣に向き合う時間を確保できていたのではないでしょうか。皆、子どもが本当に好きだから、叱るべきときはきちんと叱り、褒めるときは徹底的に褒める。私自身、教育は褒めて、叱って、認めて、励ましての繰り返しだと思っていましたし、その気持ちは今も変わりません。
 こうした生徒指導上の課題は、学習指導要領にも影響を与えました。学校教育は知識の伝達に偏る傾向にあるとして、1981(昭和56)年に施行された学習指導要領では、教科の基礎・基本を確実に身に付けさせるために教育内容を精選し、授業時数が削減されたのです。
 更に、1989(平成元)年に告示された学習指導要領を境に、教師による教え込み型の授業から、子どもを中心にした授業へと変わっていきました。テストの点数などの「見える学力」を主体とした指導や評価ではなく、「個に応じた指導」を通じて、生徒が自ら学ぶ意欲や思考力、判断力、表現力を養う指導や評価を重視するようになりました。こうした新しい学力観は、教師の指導スタイルや評価の仕方を大きく変えました。
 この流れは2002(平成14)年に施行された現行の学習指導要領にも引き継がれ、「生きる力」「ゆとり」をキーワードとして、授業時数と教育内容が大幅に削減されました。
 現在も「生きる力」の育成重視の姿勢に変わりはありません。社会が変わり、知識基盤社会、低経済成長期にあって、「生きる力」はますます重要になってきます。そのためには、PISA()などの国際的な学力調査や文部科学省の「全国学力・学習状況調査」などを通して浮かび上がってきた課題を解決していくことはもちろん重要です。そして何よりも、感動する心や思いやりの心、感謝する心を持ち、将来に希望を持ち、コミュニケーション能力や社会性を持つ子どもを育てていくことが大切ではないでしょうか
 これまで、学校現場を代表して、学習指導要領の改訂についての意見表明や情報発信をしてきた私たち全日本中学校長会にとって、目下の課題は新学習指導要領の円滑な実施のための体制づくりです。例えば、教師が子どもと向き合う時間を確保するため、教員定数増などを働きかけています。

注)経済協力開発機構(OECD)が実施する、15歳児(日本では高校1年生)を対象とした国際的な学習到達度調査。2000年に第1回の本調査を行い、以後3年ごとに実施。第1回は読解力、第2回は数学的リテラシー、第3回は科学的リテラシーを重点的に調べている

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