記念特集 中学校教育のこれまでとこれから
VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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生徒の気持ちをありのまま受け止める

 転機は赴任半年後に訪れました。学級には、担任の私だけでは解決できないような問題を起こす生徒がいました。その生徒にどのように接すべきかを考えあぐねていた私に、鶴岡先生はこう言いました。
 「生徒を受け止める役割に徹しなさい」。私ははっとしました。私は、自分の学級のことは、すべて自分で解決しなければならないと肩ひじ張っていました。その一言で、自分1人で背負い込まなくてもよいということに気づいたのです。
 それからは、生徒をむやみに叱ったり、何かを強制したりするのをやめ、生徒の思いをひたすら受け止めるよう心がけました。生徒の話には誇張や矛盾も少なくありませんが、まずは否定せずにひたすら耳を傾ける。すると、次第に生徒から積極的に話しかけてくるようになり、それまで話してくれなかった生徒の思いや家庭の事情などを語るようになりました。生徒の懐に飛び込んで、内面を引き出すことができるようになっていたのです。
 それからは、生徒と接していても気が楽になりました。生徒からも「先生も大変だね」「昨日も遅かったの?」と声をかけてくれるようになりました。その一言ひとことが、教師としての自信につながっていきました。
写真  逃げ出しそうになった日々から9年が経ち、今は副担任と学年全体の生徒指導担当を兼ねた立場になりました。生徒指導に自信が持てるようになったが故に、生徒に近付きすぎてしまうこともありましたが、今は生徒と適度に距離を置くように意識しています。また、指導の最前線にいるのは担任の先生方です。学年が一つのチームとなって指導できるように、担任が生徒と共に過ごす時間を多く確保できるように、自分の立場でできることをしようと心がけています。私が一番辛かったころに鶴岡先生の後ろ姿から学んだことです。
 生徒と接する以上、経験年数や年齢、立場は関係ありません。だからこそ、ほかの先生方の仕事の様子や、生徒に対する所作の一つひとつが、よい教材になると思うのです。鶴岡先生がそうしていたように、これからは私自身の後ろ姿で教師としてすべきことを、若い先生たちに伝えていきたいと思います。


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