私が勤務する多摩大学は、89年度に開学した比較的歴史の浅い大学である。経営情報学部と経営情報学研究科という１学部１研究科の小規模大学だ。
　私は多摩大学の開設準備委員会のメンバーであった。委員会では、教育の理念を表すキーワードを「国際」「学際」「実際」の三つに決めた。
　私は、これらに加えて、小田急学会のコンセプトの一つであった「域際」という言葉も、これからの大学教育の重要なキーワードだと考えた。学生が地域に学び貢献することで人間的に成長していく、それが教育効果といえるからだ。開学時から、ゼミなどにおける「域際」教育の必要性を訴え、実践してきた。それは今、全学的な取り組みに広がっている。
　その一つが、中谷巌学長自ら講師の一人となって展開している「自己発見講座」という授業だ。「自己発見講座」は１年次の通年の必修科目で、生き方や学び方に関する講義のほか、知識を獲得するための技法（メタ・ナレッジ）なども教える。授業では、ディスカッション、フィールドワークといった多彩な形態を取り入れている。フィールドワークでは、地域の問題を発見し、具体的な解決策を考え、それを行政に提案するという具合に、アクションを起こす。
　04年のテーマは、「拝啓、石原都知事様」。東京都の抱える問題点を発見し、改善案を出す、という試みだ。１年生全員を41チームに分け、チームごとに課題を見つけ解決策を考える。
　渋谷駅前をきれいにするための策を提案したチームが優勝した。解決策とは、（１）地域のクリーンアップキャンペーンへの参加（２）地元小学校での環境問題に関する授業の実施、というもの。（１）は約500人が集まる清掃活動だ。歩行喫煙禁止地区であることを知らせるティッシュを配ったり、吸殻の着ぐるみを着てアピールなども行った。（２）は、渋谷区立神南小学校の４年生と６年生を対象にゴミ問題についての授業を行った。
　これらの活動をきっかけに、NPO団体「渋谷を美しくし隊」から協力要請を受けたり、区役所が主催する「渋谷区民環境会議」に招待されたりするなど、学生たちの活動の幅はどんどん広がった。このチームのある学生は、「自分たちの行動が大きな活動に発展したことで自信がついた」と話す。こうした活動を通して、学生は地域が知のキャンパスであることを実感し、成長する。地域の企業や住民に、大学を知ってもらうことにもつながる。