私にとって、教育の現場は地域である。ゼミを受け持つにあたって、「地域」「起業」「文化」という三つのキーワードを有機的に結びつけ、実学教育をするユニークなゼミにできないか模索した。そして、チームで仮想の企業を創業し、地域の企業から出してもらった課題や仕事に取り組むビジネスシミュレーションを始めた。
　例えば、地元の多摩に東京本社があるベネッセコーポレーションの山崎光雄前会長に、「多摩を世界一の幸せコミュニティにする」という課題を出してもらったことがある。地域を調査・分析させ、課題解決策を提出させた。最後は山崎氏に審査委員長になってもらい、コンペも実施した。
　荒川区のある企業から、「東京下町中小企業の未来活性化戦略のデザイン」を発注されたこともある。私自身も課題を提示する。「多摩大学を世界最強の大学にする」という課題で、坂本竜馬の船中八策を参考に、多摩大八策を考えさせた。
　ゼミ生の中から、自分で新しい職業やベンチャー企業を起こす者も現れた。ある学生は、在学中に、「アントイレプランナー（トイレの起業家）」を自称し、地域の美しい公共トイレのプランナーになった。また、ある学生は、卒業後、高齢者のためのＩＴ教育やリサイクル品のネットオークションのビジネスを始めた。現在は会社を起こし、東証マザーズ上場を目指している。
　90年代の後半から、「コミュニティビジネス」という考え方が社会に広まった。「地域の重層する問題を市民の手によってビジネス的手法で解決していく」というのが一般的定義であるが、本学の学生たちは、地域をフィールドにして、まさにコミュニティビジネスを実践しているといえよう。