活動拠点の提供や助言という形で「まちづくり」の授業を支援しているのが、一橋大学の教員、市職員、商店主、市民活動家などによる任意団体「くにたち富士見台人間環境キーステーション（ＫＦ）」。01年頃、大学に近い富士見台商店街の廃業者急増に危機感を抱いた有志が、行政を巻き込んで立ち上げた研究会が母体になっている。教育資源を活用して商店街の再生を目指す店主たち。市民の力を結集して、文教地区という特色を前面に出した地域振興を図りたい行政。そして、学生の市民意識の醸成につながるインターンシップを始めたいと考えていた大学。それぞれの目標に向けて協働するネットワークとして、ＫＦが生まれた。
　大学は、「きちんとした教育的成果を上げるため、学生の活動を正式な授業として位置付けるべき」と考えた。商店街と市は「拠点となる場がある方が学生は活動しやすいだろう」と提案、市が空き店舗を借り上げてＫＦに提供している。現在、ＫＦの理事は学生が３分の１を占め、事務局も学生中心で運営。ＮＰＯ法人格の取得を目指す。
　授業を担当する大学院社会学研究科の林大樹教授の専門は労使関係論で、もともと経済界や行政とのネットワークがあった。留学生センターの横田雅弘教授も、留学生のケアを通して地域と密接な関係を築いている。いずれもＫＦの母体である研究会からの中心メンバーだ。環境問題などが専門の非常勤講師を加え、授業を担当している。
　毎回３人で授業に出て、プロジェクトの成熟度に応じて、積極的に助言したり口を出さず見守ったりする。03年度の特色ＧＰに授業が採択され、補助金でミニコミ誌の編集経験者とイベント企画のプロを専属スタッフに採用、５人による手厚い指導体制が整った。
　02年度の夏学期は190人が履修したが、冬学期は７〜８割に減少。「課外の時間を費やす上に店舗経営でシビアな意識が求められるなど、活動の負担が大きいためだろう」と、横田教授は分析する。２年目以降、夏学期が65人程度で冬学期に相当程度減る、というパターンが定着。
　林教授は、「面白そうという軽い動機で基礎編を学び、より主体的に地域に関わりたいという学生だけが冬も残る。そんな履修の仕方でいい」と話す。面白さにはまり、１年次から４年次まで履修し続ける学生もいるという。
　「この授業は、社会市民として必要な力とは何かを探るための実験の場。実績を積む中で、地域のリーダーを育成できる体系的なカリキュラムを開発したい」と、両教授は力を込めた。