千葉大学が飛び入学を導入したのは、1998年度のことだ。「物理学の分野で特に優れた資質」を持つ学生を募集し、工学部に所属することとした。99年度には理学部が参加、03年度に物理学コース（理学部）と応用物理学分野のフロンティア・テクノロジー（ＦＴ）コース（工学部）に分離。04年度に、文学部の人間探求コースが加わった。
　３コースで若干名を募集。飛び入学生の教育を担当する先進科学研究教育センター独自の「先進科学プログラム」のカリキュラムで学ぶ。どのコースにも、個人指導型の少人数セミナーと学内外の講師による先端的オムニバスセミナーがある。
　文学部まで飛び入学に参加しているとは知らなかった。先進科学研究教育センター長の上野信雄工学部教授は、「飛び入学の対象は、文科系の中でも論理的に学問が展開する分野に限定している」と説明する。理工系で「脳」と呼ぶものを文科系では「心」と呼ぶ。心の活動を脳の信号と捉えて自然科学的な手法で研究する人は、文科系学部にもいるのだという。「千葉大の文学部には文理融合型の研究者が多く、私たち理工系の人間と一緒に研究している人もいる」と、上野教授は語る。
　飛び入学は当初、学内からも学外からも冷ややかな視線を浴びた。ところが、当初は無関心だった文科系学部の教員の中に、関心を示す者が増えてきた。現在は64人が、学部と先進科学研究教育センターの教員を兼務し、飛び入学生を指導している。うち14人が文科系学部である。人間探求コースの学生の将来像は、「文理融合の研究者、科学の最先端を人々に伝える科学ジャーナリスト、科学の行政官、科学を理解し国際協調に貢献する国連・ユニセフなどの職員やＮＰＯ職員など」と示されている。
　学生選考では、物理や数学の問題に加え、「正答が一つとは限らない問題」を論述式で課し、考える力を試す。面接を重視し、40分から１時間はかける。面接官が場を和まし、和気あいあいと進む。これまで全入学者の面接に参加してきたという上野教授は、「これくらい時間をかければ、その生徒について大切なことが分かる」と話す。