遺伝子から動植物までカバー

　東京農業大学は、私立の農学系総合大学である。89年度に網走市のオホーツクキャンパスに生物産業学部を開設。受験生がそれほど多くない北海道東部に学部を新設するには、相当な決断が必要だったと推測される。
　「網走には、本学の寒冷地農場などがあり、学部開設のための基盤があった」と話すのは、大澤貫寿学長だ。「北海道は日本の農業の発展に重要な役割を担い、農業形態は本州とまったく違う。そこに貢献する人材の輩出を第一に考えた」。
　98年度には、農学部の１学部８学科を、農学、応用生物科学、地域環境科学、国際食料情報科学の４学部12学科構成にするという一大改革を断行した。この大幅な改組は、研究領域の飛躍的な拡大が引き金になったという。
　これにより、農学部は農学科と畜産学科の２学科構成に。応用生物科学部は、醸造学や栄養学にバイオサイエンスなどの新分野を統合。造園学や林学に生産環境工学などの新分野を加えたのが、地域環境科学部だ。国際食料情報科学部では、農業経済学や国際農業開発にバイオビジネスなどの新分野が加わった。
　「従来の生産中心の農学だけでは学生や社会のニーズに対応できない。この改組によって、微生物の遺伝子レベルから動植物までを扱う生物系の総合大学としての体制が整った」（大澤学長）。

動植物による心の癒しもテーマに

　06年度には、農学部にバイオセラピー学科、生物産業学部にアクアバイオ学科を新設する予定だ。
　バイオセラピー学科は、動植物との共生や動植物による心の癒しについて体系的に教育し、医療、福祉や介護などに役立つ知識を提供する。ハーブによる園芸療法士、動物を利用した介護・治療に取り組むアニマルセラピストなどの資格取得にも力を入れる。
　「園芸療法やアニマルセラピーの体系的な教育システムは、日本の高等教育機関にまだほとんどない。動植物を心の癒しや生活の質改善に生かすための教育システムを確立したい」と、大澤学長は抱負を語る。
　アクアバイオ学科は、東京農業大学で初の水産学系学科である。オホーツク海を望む道東・道北地区は世界でも有数の漁業生産地だ。同学科では、この恵まれた条件を生かす。調査船に乗って海洋生物の生態調査などを行い、魚介類などの水産資源の安定的な確保と、海洋環境の維持や改善について学ぶ。アクアバイオテクノロジーと呼ばれる海洋生物の機能を利用した新技術・新産業の開発にも取り組む。

教育を担う200以上の研究室

　東京農業大学の教育システムを特徴づけるのが、農学系では群を抜く200を超える研究室だ。それぞれに２、３人の教員が配置される。学部・学科によって多少時期がずれるが、学生は、原則として２年次後半から３年次に研究室に所属する。
　各研究室の教員は、就職指導も行っている。特定の職業分野や企業に人脈を持つ研究室があり、それを選択の決め手にする学生も多いという。研究室の改廃や名称変更は学部長権限でできるので、ニーズの変化に対してフレキシブルに対応できるという。大澤学長は、人気がない研究室に対して、教育内容の見直しを要求することもあるという。
　研究領域の拡大によって、分野を横断して研究する必要性が高まっている。同大学では、研究室が連携し複合領域に取り組んでいる。「研究室間の壁が低く、教員同士は活発に交流している」という。