今日の大学入学者の実像に目を向けることが重要である。確かに入学時点で、新入生は将来を考え、専門分野での勉学を深めることを希望している。しかし、確固たる将来設計を高校生に求めることは不可能であるし、専門領域がどのようなものか、十分な認識を求めることも困難だろう。専門領域の勉学に対する思い込みの深さも学生によりまちまちである。さらに、高校までの勉学は、専門分野の勉学の、広い意味での準備としては必ずしも十分でないことも事実である。
　そのような学生が、大学での専門教育を狭く捉えて勉学を深めれば、社会で自らの識見の狭さに直面することになる。その結果、社会が大学教育批判に向かうのは、理解できる。大学は、新入生の実像に即して、社会の負託に応え得る人材を育成できる教育体制を整備しなければならない。
　以上のような認識から、新潟大学では、従来の「専門課程と教養課程」の２本立ての学部教育に代わる新たな「学士課程教育」を創造する試みを始めた。それは、専門教育や教養教育の意義を否定するものではない。従来の教養課程のみならず専門課程についても抜本的に見直し、学部４年間の教育成果を実質化し、自立した創造的学習者を育成しようというものである。
　「自立した学習者」を育成するには多様な方法がある。生涯学習者として知識基盤社会に貢献できる人材の育成は、教養教育だけの目的ではない。むしろ、専門教育によってこそ達成できる。工学部は工学教育、人文学部は人文学教育、法学部は法学教育を通じて生涯学習者を育成できるはずである。
　そのようにして育成された生涯学習者は、大学での専門が何であったにしても、生涯学習能力を生かして様々な業種・職種に柔軟に対応できるだろう。多様な専門教育を受けた多様な社会人が、共に働く社会という土俵の上で立派に勝負できる人材となるはずだ。