この考え方を基に、07年度実施を目指す「Version3.0」のカリキュラムが検討されている。現在のカリキュラムは、00年度に大幅改訂された「Version2.0」だ。ＳＦＣ創設時には、選択できる科目が学年ごとに指定されていた。Version2.0で学年選択制はなくなったが、卒業制作は従来通り選択科目のままだ。いくら大学が呼びかけても、履修しない学生が多い。そこで、Version3.0では、卒業制作を必修にして、それ以外の科目はすべて自由選択制にする。カリキュラム改革が行き着くところまで行ったといえる状況だが、異論は出なかったのだろうか。
　小島朋之総合政策学部長は、「大学の入り口で問題発見・解決型の人材教育を目指すというのだから、出口で品質保証をしようというのは当然でしょう。卒業制作を必修にし、他の授業科目を自由選択制にすることは、両学部の教授会で合意されている」と語る。
　もちろん、「自由」といっても、履修相談に乗るアドバイザー制度を強化するなど、筋道立った履修を勧める体制は用意する。それでも、124単位の中で必修は卒業制作だけというのは徹底している。
　「大学で何を勉強してきたか」と聞かれ、「総合政策です」「環境情報という学問です」と答える。具体的な内容を問われて口ごもるよりも、卒業制作の説明をして、「ロボットを作りました」「日中関係を安定させる方法を研究しました」と言う方が、相手にはよほど分かりやすい。大学にとっても、学生が研究したことのレベルと学習の広がりがはっきりして、個々の力量を対外的にきちんと説明できる。
　学力の品質保証という言葉を使い出したのはＳＦＣの教員だが、実際に保証できる体制にはなっていなかった。ＳＦＣの学生はよく勉強するといわれるが、中にはそうでない者もいる。「その気になればいくらでもさぼれる。それほどカリキュラムの自由度が高い」と、教員が言うほどだ。
　卒業生は一般的には評価が高いが、調査によってきちんと追跡したことはない。小島教授によると、楽天を立ち上げたのはＳＦＣの卒業生たちだったそうだ。優秀な卒業生に事欠かないものの、卒業生全員に、問題発見・解決力があると保証できるかというと、無理といわざるをえない。卒業制作の必修化は、品質保証が目的だ。それでもまだ十分とはいいきれまい。Version3.0以後も、解決しなければいけない課題は出てくるだろう。