誌上セミナー 大学の財政と経営 第6回 私立大学を取り巻く環境と経営安定化・セーフティネット
Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
  PAGE 2/7 前ページ  次ページ

(2)大学による社会的利益のアピールで支持獲得を

 取り巻く状況は同じでも、個々の私立大学がどう対応するかは、それぞれ異なります。連載第5回で紹介したアメリカのエイロン大学から学ぶべき点は、ポジショニング、マーケティング、カリキュラム、授業法、マネジメントを含む経営戦略の一貫性と組織性です。大学は、様々な学部・学科で構成され、事務組織も多様です。それぞれの計画と実施の一貫性や組織性が重要となります。
 国立大学が中期目標・計画を策定するようになったことが、教育研究活動や経営管理の効率化をもたらしたかどうか評価するのは、時期尚早です。しかし、数校を訪問し、学長、理事の方々のお話をうかがうと、中期目標・計画の達成への組織的努力がなされていることが分かりました。
 私立大学の多くは、この中期目標・計画に当たるものをすでにもっていると思います。理事会、学長、事務局長だけでなく、一般の教職員にもその目標・計画を理解してもらい、達成に向けて組織的に努力することが望まれます。
 大学の第一の顧客は学生であり、そのニーズに合った教育プログラムを提供することで経営が支えられます。一方で、学生の知識・技能の発達を促すことで、学生が就職する組織の雇用者、社会も恩恵を受けます。よって、大学の顧客には雇用者や社会全体が含まれ、これらのニーズに応えることも大切です。
 国立大学と同様、私立大学も社会的な利益に貢献しているはずです。それが見逃されていることが、高等教育に対する公財政支出が諸外国に比べて低いことと関係していると思われます。私立大学は、社会的利益への貢献を明確に打ち出すことによって、もっと企業や社会からの支持、支援を受けられるはずです。
 (図表2)は、大学教育による利益をまとめたものです。個人的利益と社会的利益それぞれに金銭的、非金銭的利益があり、双方とも重要です。資産運用の成功度合いや余暇の充実は、高学歴者ほど高いことが、アメリカで実証されています。その結果、社会全体として見ても、望ましい消費性向につながるということが考えられます。

図表


  PAGE 2/7 前ページ  次ページ
目次へもどる
大学・短大向けトップへ