特集

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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1.伝統都市型大学―――導入教育を大学文化に委ねる

 京都の伝統的な仏教系大学である大谷大学文学部には、基礎演習に相当する1年次の必修の授業として「学びの発見」がある。この授業のねらいは、大学での学び方に慣れることで、アイデアの出し方・絞り方・まとめ方のグループワークとレポート作成、および発表の実践を指導する。
 さらに、導入科目の延長として1・2年次を対象とした、「自己表現の技法」と「読んで話そう」という授業がある。前者は「学びの発見」を発展させた授業であり、後者は学生に同学部のリテラルカルチャーの基本に立ち返ってもらうため、本の背景を自分のスタイルで読み取らせることをねらいにしている授業だ。課題図書は自由に選べるが、「不思議の国のアリス」「ガリバー旅行記」「シャーロックホームズ」「京都人は日本一薄情か」など多岐にわたる。
 受講者の中には、この授業をきっかけに、書物と自分の関係を再発見する学生が多い。この一連の授業の効果は劇的に表れるものではないが、新入生はこれらの授業を通して仏教の世界の魅力や奥深さ、自分がどのように伝統仏教系大学と付き合ったらよいかに気付くようだ。また、基礎演習に出席することによって、明らかに不登校気味だった学生が大学の学問の世界に近づいてくる、という効果が見られた。
 大谷大学の取り組みは、大学文化を眠りから覚ますことによって、導入教育の効果が上がる例と考えたい。

2.移転型大学―――アドバイザー選択制の効用

 大学文化が地域に根ざしていない場合、導入教育は隠れた教育機能に助けられることがない。
 移転型大学の代表といえる中央大学にはオリエンテーションキャンプがある。大学文化が地域社会と共有されていない場合、導入教育を1つの基礎演習科目で展開しても限界があるようだ。ならば、学生が大学を体験するときの滑り出しを、大学が周到に用意することが必要になるだろう。
 この着想に基づき、導入教育の開始を入学時のオリエンテーションガイダンス、オリエンテーションキャンプ、およびクラス担任(アドバイザー)制と基礎演習という、一連の流れとしてとらえた事例として、京都文教大学の取り組みが挙げられる。学生によるクラス担任(アドバイザー)の選択制は、アドバイザー教員との相性や専門分野の好き嫌いによって学生が大学に馴染めないケースを改善する試みだ。アドバイザーを学生の責任で選ぶという方法を採っていた期間、1年次退学者は減っていた。

3.新設・改組大学―――入学時システムとしての導入教育

 畿央大学には、2003年に健康科学部が、2006年には教育学部が設置された。同大学の前身は家政系女子短大であり、大学文化がリニューアルされたといってよい。
 ほぼ新しい大学としてスタートする場合、導入教育にはオリエンテーションガイダンス、オリエンテーションキャンプ、基礎演習の3点セットが有効だと思われる。しかも、教員集団が新しい大学の理念を共有している場合は、チームワークがよいため、基礎演習の基本コンセプトが浸透しやすい。
 同大学健康科学部の基礎演習は「基礎ゼミ」と呼ばれ、学生の動機付けになるように工夫されている。専門課程への入り口になるよう、担当教官に裁量権が与えられている。また、教育学部では「ベーシックセミナー」を実施している。これは他大学の基礎演習の長所と短所を参考に、学部に応じて柔軟に工夫された基礎演習の形態になっている。
 これらの導入教育を成功させるには、そのための入学時プログラムの組み合わせという新たな発想が必要であり、さらに基礎演習の内容の柔軟性、つまり到達目標や副次的効果をねらうことなどがポイントのようである。


 以上、いわば導入教育システムの3点セットを述べてきたが、ほかの3点セットについても言及する。
 第1は、大学がサービス業であるということを理解している職員、大学教育に関心を持つ教員(学習プロセスを理解すること、授業の手法にもプロセス理解が必要)、大学にふさわしい「(旧来とは違う国際標準の)教養」を持った教員の3点セットだ。第2は、意識、知識、スキルという導入教育の目標のセットで、第3は、さらにこれを教育の場で機能させるための、大学という存在を信頼する家庭、学生のある程度の基礎学力、学生の知的活動性あるいは柔軟性(伸びる余地や意欲)という3点セットである。


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