特別企画

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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飼育から販売までトータルに学生に意識させる

 酪豚の誕生は、「中小家畜研究会」が企業から島豚の産子数、発育などの調査依頼を受け、2001年に奄美大島の島豚を受け入れたことによる。島豚の肉質の良さに注目した同研究会は、調査終了後に残された豚を他品種と掛け合わせて品種改良を重ね、2003年に酪豚を生み出し、安定生産できるまでにこぎ着けた。
 酪豚の特徴は、豚特有の臭みが少なく、赤身部分にサシ(脂肪分)が入っていること。脂肪分が多い割には脂っこくなく、さっぱりして甘みがある。
 臭みが少ないのは、飼育環境に工夫があるからである。一般的に豚舎の床はコンクリートだが、酪豚の豚舎の床には、もみ殻を高さ90センチメートルにまで敷き詰めている。もみ殻に付着する土着菌を利用して糞尿を分解し、臭みの成分が豚に染み付くのを防ぐ。子豚をある程度、成長させた後、この豚舎に移して出荷するまで育てるため、臭みが少ないのである。
 飼料には抗生物質が含まれていない。乳酸菌や北海道内の工場から出る小麦の残さなどを独自に配合する。おいしい肉質に仕上げるだけでなく、トウモロコシの高騰による飼料のコストを抑えるためでもある。
 上野主任技師と協力し、家畜飼料の機能性について研究する酪農学部酪農学科の安宅一夫教授は、「将来的には道産のみのエサで飼育し、ブランド価値を高めたい」と意欲的に話す。

写真
写真1 もみ殻が敷き詰められた豚舎は、幅約5m、奥行き約20mの広さ。ここに約15頭が飼育されている。豚が適度に運動できるように、餌箱を手前に、奥に水飲み場を置いている

 飼育環境、飼料の配合などを改良するための研究も学生が行う。どのような肉を消費者は好むのか、販売価格と生産コストとのバランスをどう取るのか。学生は販売先から直接アドバイスを受けながら、上野主任技師の指導の下に試行錯誤を繰り返す。これらの経験は、学生に家畜業をビジネスとして実感させる好機となっている。
 「学生は飼育から販売までトータルに携わる。食の安心・安全を当たり前のこととしてとらえ、ビジネスとして成り立たせるためにはどうすればよいのかを、研究・経営の両面から考えていく。この経験は大きい」(上野主任技師)
 研究会のメンバーの中には、大手食肉メーカーに就職した学生や起業を目指す学生がいる。卒業生が社会で活躍し、大学の評価につながることを上野主任技師は期待する。


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