近年、「社会人基礎力」や「若年者就職基礎能力」と呼ばれる、21 世紀の社会で活躍する人材の基礎能力を具体化する試みがなされている。また、中央教育審議会においては、学士課程教育共通の学習成果の参考指針として「学士力」が提示されようとしている。旧来、「教養」という言葉でいわれてきたものは、「学問の野原」をさまようために必要な基礎能力であり、それ故、不定型なものであった。従って、大学教育の量的拡大により、あいまいな共通了解が許されなくなった段階で機能を失うことになったのは当然のことなのである。
　私は、「学士力」は「教養」とは区別されるべきものと思っているが、学士課程教育の学習成果の共通要素という意味で、学部教育の中で教養教育という語が担ってきた機能の一部を代行することになるのも否定できない。それが、「定型的」なものとして提示されようとしているところに、大学教育の本質的変化を見ることができるのかもしれない。
　「学士力」はあくまで「参考」指針であること、そして、そのままで学習成果目標としての機能を果たし得るものではないことに、注意が必要である。つまり、学士力は学習成果の「部分的枠組み」例として提示されているのであり、各大学はこの枠組みを参考に、大学自治の誇りを懸けて、自らの目標項目を定めなければならない。そして、定めた目標項目ごとに、学生がどの「レベル」まで到達することを支援する意図でプログラムが構築されているのかを明確にする必要がある。
　今日の大学の困難さは、ただの枠組み提示では許されない現実に如実に現れているように思う。