中教審の答申で度重ねて取り上げられ、従って、認証評価においても留意されているはずの「３つの方針」の明示ということが、大学でどのように実践されているかとなると、ホームページ等で見る限り、現状はいまだ寥（りょう）々たるもののように思われる。「３つの方針」が、内容はともかくとしても、形式的にそろって明文化され、明示されている例は極めて少ないようである。
　ただ、アドミッション・ポリシーに関しては、入試改善の観点から他に一歩先んじて提言されてきたこともあり、かなりの大学が明文化し、あるいは募集要項の中などで明示している。しかし、それも「本学の教育方針を理解し、自ら学ぶ意欲のある学生を求める」というたぐいの抽象的、汎用的な表現で、他大学との違いを具体的に示し、受験生の大学選択に有効な材料を提供できるようにはなっていないものが多い。カリキュラム・ポリシー、ディプロマ・ポリシーとなると、答申の意気込みからは一層遠い状況のように思われる。
　たびたびの中教審の提言にもかかわらず、また第三者評価の進展にもかかわらず、一番先発のアドミッション・ポリシーでさえ、形式、内容ともに整った例が少ないのはなぜか。答えは明らかであって、長年一元的な大学理念に安住し、「目標によるマネジメント」という経営理念にもなじんでこなかった日本の大学にとって、これは極めて難題だからである。
　教育の理念・目的として、人間性、広い教養、国際性など抽象的な言葉を挙げても、それは他者との違いを示すものとはならず、受験生にとって大学選択の手掛かりにはならない。歴史を経て自他共に認める個性・特色を確立している少数の大学は別として、多くの大学は、個性・特色によって一貫された「３つの方針」を、日常の実践の指標となり得る具体性を持った方針として定めるということには大きな戸惑いを持っているのだと思う。
　「３つの方針」に反映されるべき個性・特色をどのようにして確立するか。この問題の解決を図らずに「３つの方針」の策定を進めても、それは実態を上滑りし、高大接続の改善にも大学の教育改革にも、さして役に立たないものになるのではないかと危惧（きぐ）せざるを得ない。