戦後の改革で多様な高等教育機関が新制大学に一元化されて以来、大学は実態の多様性にもかかわらず一元的な大学理念を追求し続けてきた。多様化・個性化とは逆に、１つのモデルを追求する画一性が、日本の大学の行動特性となっていたと言ってよかろう。
　その結果としての実態と理念の乖離（かいり）を解決すべく、大学の種別化の議論が幾度か繰り返されてきたが、議論は収斂（しゅうれん）することがなかった。結果的に多様化、個性化というキーワードだけが残ったが、今日までのその成果は、大学のボーダーレス化と内容の無秩序化だけのように見える。個別大学の自由、気ままな個性化、特色化だけでは高等教育の構造的な多元性は生まれなかった。
　この実態を踏まえ、中教審の「将来像」答申は、７つの機能別による大学の個性の明確化という発想を打ち出したのである。大学の「緩やかな類型化」といえるものだと思う。高度専門職業人の養成か、一般的な幅広い職業人の養成かなど、大学が選択する機能によって個性・特色を明確にすれば、それに沿って学生の受け入れ方針を具体的に明示でき、受験生の大学選択も適切に行われるようになり、大学と学生のミスマッチも改善されるだろう。同様に、教育課程の編成や学位授与についても明確な方針を立てやすくなるとともに、「３つの方針」全体も相互に一貫性を保ちやすくなるに違いない。「３つの方針」が明確にされ一体として教学経営に有効に活用されるためには、その基礎として、機能別による個性・特色の明確化が不可欠なのである。
　今は、戦後の改革以来初めてといえる大学の大改革時代である。「緩やかな機能別分化」は、その実現可能性において、かつての「大学の種別化論」とは比較にならない。
　現に、大学院レベルでは、国際的教育研究拠点の形成、専門職大学院の制度化などの政策によって、機能別による分化がすでに進められつつある。この大学院の構造改革は、これに接続する学士課程教育にも深刻な課題を投げ掛けており、結果的に学士課程教育の構造的改革をも促すことになろう。
　今回の特集のテーマである「３つの方針」が機能するためには、大学の個性・特色の明確化が前提条件である。「学士課程教育の構築」のためには、大学院の構造改革との整合を図りつつ学士課程の機能別分化をどのように進めるか、今これを議論すべき時ではないだろうか。