リーダーズマインド

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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 LEADER'S
 MIND
 No.002

リベラル・アーツ教育を通して、
自己を確立した女性を育成していきたい

  LEADER 東京女子大学学長 湊 晶子
   INTERVIEWER (株)進研アド代表取締役社長 片岡 晃

キリスト教をベースとしたリベラル・アーツ教育を具現化し、改革に尽力してきた湊晶子学長。2009年4月に新設される「現代教養学部」の目的、東京女子大学のリベラル・アーツ教育のめざす道を聞いた。

「人材」よりも「人物」、「知識」よりも「英知」

湊 晶子学長片岡 東京女子大学では、「女性の一生涯を支える大学」として、リベラル・アーツ教育を行っています。今、女子大学にはどんな教育が求められているとお考えでしょうか。

湊学長(以下湊) 女性という前に、まずは人としてどのように生きていくかを大切にしています。これは、「コンピュータのスキルがある」「英会話ができる」など、テストで測れるスキルを持った人材を育てるということだけではありません。つまり、どのような困難に出合っても、目標を見失わずに自ら考えて克服し、前進することができる、そんな「教養」を身に付け、自立した人物を育てたいと思っています。

片岡 「人材」と「人物」には、どのような違いがあるのでしょうか。

 本学の初代学長、新渡戸稲造先生は「人材よりも人物、知識よりも英知、そして知ることよりも実行すること、実行することよりもあなたがあなたとして存在することが大切だ」と述べました。スキルを持った「人材」は、育成しやすいのです。でも、「人物」を育成するのは難しい。「人物」とはすなわち「人格」を持った人ということです。

片岡 東京女子大学では、リベラル・アーツ教育を通して、「人格」を持った人を育成しようとしているということでしょうか。

 リベラル・アーツ教育の根源は、ここにあると思っています。では、人格を持った人とはどういう人かというと、一つには芯がある人だということができます。新渡戸先生もおっしゃっていますが、人は自分の中に座標軸を持つことが大切です。まず、横軸は人とのつながり。でも、人の間だけでものを考えると、どうしてもぶれてしまいがちです。誰かと比較して、「私は駄目だ」と感じたり、またはうぬぼれてしまったり。だから、縦軸、つまり人との比較ではなく、自分自身の指標を持つことも大切なんです。

片岡 どうすれば座標軸を持ち、自己を確立できるのでしょうか。

 そのためには、ただ知識を身に付けるだけでは駄目です。東京女子大学の広告キャッチコピーにもありますが「知識」を「英知」に変えていかないといけません。4年間の学びの中で、真理を追究すること、つまり人間とは何か、人生の意味とは何かを常に自分自身に問い掛け、「英知」を獲得できるような教育をめざしています。

片岡 そのような教育を女子大学でされる意義とは何でしょうか?

 女性と男性は同等であり、優劣があってはならないと思います。しかし、女性と男性の一生は異なります。女性は、出産・育児と向き合います。だから、男性と女性のキャリアは大きく違うのです。
 女性にとっては、報酬が得られる職業に就いている時だけがキャリアではありません。出産・育児、ボランティアなども含め、キャリアを考える必要があるのです。私は、これを「マルチプルキャリア」と呼んでいます。4年間を通して女性としてのキャリアをしっかり考えてほしい。2007年度の現代GPに採択された「『東京女子大学キャリア・ツリー』――リベラル・アーツ教育に基づくキャリア構築支援――」には、このような思いが込められています。大学時代、自分の中にまかれた種を、生涯をかけて育て、一人ひとりのキャリア・ツリーを形成してほしいと思います。


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