オーストラリアの大学セクターは規模が小さい（39機関／2008年度）。今、そのセクターが包括的な高等教育改革の中にある。オーストラリアでは1960年代後半以降、高等教育機関の業績に関する説明責任が求められるようになった。それに伴い、客観的で系統的な方法を組織の評価に提供するIR（InstitutionalResearch）への関心が強まり、専門組織の設置が増加した。1990年代には高等教育の市場化が進行し、大学財源の授業料収入への依存度が上昇して留学生の獲得が重要な経営課題となる。
　さらに、オーストラリア大学質機構（AUQA／2000年設置）に代表されるような、全豪レベルの質保証メカニズムの構築が本格化した。石炭や鉄鉱石に次いで高等教育も収入をもたらす輸出品目に並べるオーストラリアにとって、教育課程や卒業生の「品質保証」は国家の課題に等しい。近年、高等教育の質保証と国際的環境における存在感の増大をめざす連邦政府の政策の下、教育満足度調査等の実施・分析がIR組織のサービスの主要を占めてきている。　この質保証メカニズムを強化する奨励策の一つに、2006年開始の「学習・教授の成果に基づく資金配分（Learning and Teaching Per-formance Fund: LTPF）」がある。LTPFによって機関に配分される助成金（8330万豪ドル／2008年度）は、政府の高等教育に関する支出全体から見れば膨大ではない。しかし、LTPFの結果を基に全国紙等が作成するランキングがもたらす大学の評判への影響が重大なため、各機関はPDCAサイクル―目標に則した成果を挙証するデータ収集、分析・報告、次期計画への反映―に基づく内部質保証システムの強化を余儀なくされている。これを支えているのがIRの機能である。
　LTPFでは、大卒者雇用に関する団体「オーストラリア卒後職業（GCA）」の統括により毎年実施される全豪レベルの卒業生調査である学士課程教育アンケート（CEQ）、卒業生進路調査（GDS）に加え、連邦教育省の年次統計に基づく３つの領域―学生の満足度、成果、成功―から成る７つの指標を基に、教育の「優秀性（excellence）」を示した機関に助成金が与えられる。このうち、学生の満足度の領域では、CEQの「優れたティーチング」「一般技能」「学士課程の総合的満足度」の３つの指標が用いられ、大学側（課程レベル）の働き掛けが学生の変容に貢献しているかどうかが測られる（下表）。このため、機関ではCEQの指標が重視され、教育の質向上につながる実践が優先事項に押し上げられている。