2008年度の世界大学ランキング（Times）で第38位のメルボルン大学は、競争的な環境の中で自らを「事業体」と見なす行動をとっている。同大学は伝統的な研究重点大学であり、LTPFでも高位を保っている。学生数約３万4000人（フルタイム相当）のうち留学生が２７％程度を占め、国際的な学生獲得も堅調だ。さらにボローニャ・プロセスによる欧州圏内の学位制度の改革動向を視野に、2008年に「メルボルン・モデル」と総称される大掛かりな教育課程改革を実行したことで知られる。同モデルは６つの広領域の学士課程プログラムに基づき、「新世代学位」と呼ばれる学士号を授与する。これは、学位の国際通用性を高めることにより、欧州の高等教育に関心を持つアジア諸国の若者をオーストラリアに引き付け、世界的な評価を上げるという戦略の主翼となっている。
　メルボルン大学には、戦略的計画を支援する経営部門のIR組織として「大学計画室（University Planning Office: UPO）」がある。経営担当の副学長組織の一部局であり、質および評価サイクル、計画および予算、戦略的危機管理、マネジメント情報の構築と運用、政策および外部との連絡等を柱に、高等教育研究センターと連携しながらシンクタンクの役割を果たしている。ここに、教学領域における調査、データ収集・分析、報告の担当者が配置されている。手掛ける調査には、全豪調査のCEQやGDS、大学院生の研究満足度調査をはじめ、機関独自の調査として、CEQの項目と体系性を有し、科目レベルのティーチングや学習経験の質を在学生に問う満足度調査（Quality of Teaching: QOT）などがある。LTPFにはCEQやGDSの素データが反映されるため、QOTを活用して在学生の満足度を上げることが、数年後のLTPFでの好結果につながると認識されている。
　筆者は、過去２度（2004、2008年）の訪問から、UPOの外部環境に対する感応性がより鋭敏になっていると感じた。それは、より系統的な「統合マネジメントシステム」の志向とIRの機能強化に見られる。重点課題は、（１）カリキュラム体系の改編等を含む事業経営、（２）競争的環境における市場的な検討事項と学術的な検討事項の調整、（３）戦略的な危機管理、（４）国際ランキングやLTPF等の上位獲得に向けた政策立案、である。この一環として、メルボルン・モデルの実行にタイミングを合わせ、在学生の期待や学習支援サービスへの意見を探る「メルボルン体験調査」が開始された。
　さらに、教学支援としてのIRのサービスは、LTPFの結果の再検証やQOTとの総合的な分析によって、組織的な介入を要する問題点を特定するといった戦略性を強めている。専門分野別の教育改善については、UPOと部局のFD組織とが機能的な連携を図っている。特に、経済商業学部や医学部等、QOTで一般的に学生の満足度が低い大規模学部には「教授学習室（Teaching and Learning Unit）」が設けられ、LTPFの助成金等の再配分を受けて、専任スタッフが固有の教育課題に応じた支援に取り組んでいる。