金沢工業大学では、どのように内部データを活用し、教育改善に結び付けているのだろうか。
　これまで、学生の修学・生活にかかわる行動履歴を記録した「修学ポートフォリオ」を活用し、教員の指導や学生の主体的な生活改善などに生かしてきた。並行して、今後、指導改善の核として期待されているのが、現在、試行的に取り組んでいる教員のティーチング・ポートフォリオだ。各教員が、どのようなシラバスで授業を行い、その結果、学生にどのような力が付いたのか、学生はそれをどのように評価しているのか。試験結果、学生のレポートやアンケートなどを通して、指導の成果を可視化し、全学的な指導改善に生かすことがねらいだ。
　すでに準備は整いつつある。学習の成果を測るための試験やレポートは、すべてデータ上に残すようにしてあり、さらに2007年度には、学生の総合力を測る新たな評価方法としてCLIP（Creative Learning Initiative Process）を導入した。
　これは、学生の力を「知識を取り込む力」「思考・推論・創造する力」「コラボレーションとリーダーシップ」「発表・表現・伝達する力」「学習に取り組む姿勢・意欲」に分け、試験やレポート、作品や成果発表などで評価するものだ。それを下図のようなレーダーチャートで表し、達成度合いを確認する。これらの５つの能力は、まさに中央教育審議会が提唱する「学士力」と一致する。
　ティーチング・ポートフォリオやCLIPによって、学生に不足している力を明らかにすることが、授業内容の見直しだけでなく、カリキュラム全体の見直しにもつながるという。全学科のカリキュラムには「学生に身に付けさせたい力」を実現するために必要な科目が系統的に配されている。学生の能力を判定することにより、カリキュラムの不備を洗い出し、精緻（せいち）化していくことができる。

　今後は、認証評価機関による外部評価も教育改善に結び付けていく。初年度、評価に関する資料は久保教授が中心になって取りまとめたが、今後はすべての教職員が各部署の評価を行い、それを教育点検評価部が集約することを考えている。
　「『評価疲れ』という言葉があるが、評価が教育改善に有効だと認識するためには、すべての教職員が実際に評価に携わる仕掛けをつくることが大切だ」と久保教授は述べる。
　外部評価のためだけにデータを収集するのではなく、そのデータを基にして、教職員一人ひとりが大学の実情・課題を把握することが、教育改善への第一歩。地道な活動の積み重ねにより教職員の意識改革を促すことが、金沢工業大学の教育力向上につながっている。