IR専門組織を設置しないにもかかわらず、なぜ、情報の収集が速やかに行えるのだろうか。久保教授によると、それは「すべては学生のため」という大学の理念が、全教職員の意識に浸透しているからだという。
　金沢工業大学が初めて「教育付加価値日本一の大学」を目標に掲げたのは1977年のことだ。以来、赴任した教職員は、学生第一主義の理念を徹底的に叩き込まれる。
　新規採用の教員は、全精力の２割を社会貢献に、３割を研究に、残り５割を教育に傾けるよう意識付けられる。研究の３割も自分の興味のあるテーマではなく、学生の教育に結び付くものでなければならない。
　職員も同様だ。教職協働は建学綱領にも規定され、各職員に至るまで、大学にかかわるすべての人員が教育者であるという自覚を持って学生に接するよう意識付けられている。さらに、ほとんどの部署に「日本経営品質賞」の評価基準に基づく評価方法を習得した「セルフアセッサー」が配置され、絶えず組織の自己点検を行う。これらの活動は、当該部署だけのためのものではなく、すべて大学全体の教育力向上に結び付くものという意識が根底にある。
　「私立大学には建学の理念がある。すべての活動は、それを実現するためにあることが全学に浸透していれば、おのずと目標が実現できているかチェックしようという意識も働く。そのための情報の収集・公開が本学のIRそのものになっている」と久保教授は強調する。情報を経営改善や教育力の向上に生かすには、組織などの形にこだわるのではなく、教職員の意識改革が先決であるというわけだ。