実践!初年次教育講座

濱名篤

はまな・あつし

上智大学大学院文学研究科社会学専攻博士後期課程単位修得。専門は教育社会学、高等教育論。初年次教育学会常任理事、関西国際大学学長、大学教育学会常任理事、日本高等教育学会理事などを兼任。

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実践!初年次教育講座
初年次教育学会常任理事 関西国際大学学長 濱名篤

第1回 初年次教育の意義と効果の高め方

初年次教育の必要性を感じている大学は多い。
課題解決のために、「初年次教育講座」を開講する。
初年次教育学会常任理事の濱名篤氏が解説し、大学の実践例もレポート。
初回は、導入のコツを紹介しよう。

学士課程における 初年次教育の位置付け

 初年次教育を実施する大学は、文部科学省の2006年度調査によると、71%に上る。中身や定着度についてのばらつきはまだまだ大きいが、初年次教育自体は市民権を得た教育プログラムになってきた。これから導入しようとする大学もあれば、導入したもののうまくいかないという声も聞く。
 こうした状況に対応するために、2008年3月には「初年次教育学会」が設立された。1年足らずで個人会員287人、機関会員62大学、賛助会員7人(団体)が入会。予想以上に多い参加者の数は、何をどう始めていいのかよくわからない、といった反応を示していることは間違いない。
 初年次教育とはどのような教育プログラムなのかということ自体も、正確にはわからないという大学関係者も少なくない。第1回では、まず、初年次教育と隣接プログラムを見ながら、簡単に概念の整理をしていく。

初年次教育を導入している大学
出典/文部科学省「大学における教育内容等の改革状況について」(2008年度版)*文部科学省HPへ移動します
※大学院大学を除く710校を対象に調査。

 大学生活と呼ばれる「学士課程」の生活の中身は、「学士課程教育プログラム」という正課教育(卒業要件の対象)と、「キャンパスライフ」という正課教育外の諸活動(課外活動、卒業要件外の学習、学内の友人・教職員との交流など)に大別できる。初年次教育の大部分は前者に含まれるが、オリエンテーションや入学式などは後者に含まれる。
 工学系や一部の大学が行ってきた「導入教育」は、初年次教育の一類型(導入―展開―発展―完成といった構造化されたカリキュラム体系を前提とする呼称)である。これと「キャリア教育」とは、自己分析、ライフプランやキャリアプランといった内容面で共通点がある。
 「リメディアル教育」の内容は高校教育までのものであり、学士課程教育プログラムには含められないが、キャンパスライフの中では必要に応じて大学の責任で行われることが、2008年12月の中央教育審議会の答申でも明記されている。
 「入学前教育」については、ある塾の受験用語集に次の内容が記されている。「AO入試、推薦入試で入学が決まった高校生に対して、入学先の大学が数学、英語、理科などの課題を出し、入学までの間に自主学習するプログラムを実施する。大学入学後に必要とされる学力を補うという側面もあり、『リメディアル教育』の意味を持つ場合もある」。
 果たして、この内容は初年次教育の一部といえるだろうか。概念的には「否」であるが、実態としては、こうした内容を実施している大学もある。アウトソーシングも含め、入学前教育に取り組むかどうかは各大学の判断であるが、入学前の不安を取り除き、高校とは異なる大学教育への“円滑な移行”を促進する初年次教育とは、目的やねらいから見て逆ベクトルになりかねない。入学前の不安をかえって高めてしまう可能性もあるからである。現状、初年次教育の一部としての入学前教育と、リメディアル教育型の入学前教育の両タイプとが併存している実態をふまえ、下図のように整理した。

学士課程における各教育の位置付け

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