ヨーロッパ型評価による高等教育の質保証

　日本では、大学教育の質保証の指針として、中央教育審議会の答申に「学士力」が提示されるなど、質保証への関心が高まっている。質保証システムの全体的な知見は蓄積されつつあるが、個別大学がどのように行動すべきかという点については、まだ議論の段階にある。
　一方、ヨーロッパおよびアメリカでは、外国の大学で学位を取得する学生の増加に伴い、国境を超えた高等教育の質保証制度の整備に対する関心が高まっている。
　その中でも2010年を目標に進められているボローニャ・プロセスは、ヨーロッパ全体を対象とする学位の国際的通用性の確保と、それを支える高等教育の質保証の取り組みとして、世界的な注目を集めている。

ロスキレ大学（デンマーク）の教育理念を表したモニュメント。土台は基礎教育、２本の柱は２つの専攻、その上に卒業研究が乗るカリキュラム編成を表現している。

　ボローニャ宣言でうたわれた目標は、比較可能な学位システムの導入、大学・大学院の２段階構造の導入、単位互換制度の確立、学生や教員の移動の効果的な実現、ヨーロッパ全体での質保証、ヨーロッパの特質の促進という項目で構成されている。質保証については、ヨーロッパ各国の協力体制の下で、比較可能な基準と方法論を開発。現在、アクレディテーション（適格認定）とエバリュエーション（指標に基づく達成度査定）による質保証のシステム化が進められている。
　ヨーロッパの質保証の動きは、日本でも多数、紹介されているが、それが個別大学の具体的な取り組みを促すとは考えにくい。将来、ヨーロッパと同様の質保証システムを日本に導入することによって、自動的に個別大学の質向上が図られるとも考えにくい。教育の質保証の取り組みは、経営的な課題であり、学内における適切な戦略プラン、組織マネジメント、合意形成がなければ実施に移せないためだ。
　研究メンバーは、ボローニャ・プロセスに参加する大学の現状調査を通じ、日本の大学執行部に求められる教育の質保証に関する取り組みを明らかにするため、2009年２月にヨーロッパを訪問した。訪問先は、「欧州大学協会（ＥＵＡ）」と２つの大学だ。
　日本では、教育の質保証は、ＦＤなどを通して教員に任されてきた。だが、適格基準を明示化し、各大学が全学を挙げて基準を達成するための取り組みは、経営の文脈で議論する必要がある。その議論における「対話」のあり方が、調査を通じて見えてきた。