未来をつくる大学の研究室 物性物理学
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研究テーマと業績
ナノチューブからグラフェンへ尽きぬ興味の泉

 物性物理学は、物質の性質を解明する学問です。例えば、なぜダイヤモンドは硬いのか。ダイヤモンドも鉛筆も同じ炭素原子で構成されていますが、原子の並び方や結び付き方によって色も硬さも全く異なります。また、超伝導(※2)のように、ある物質を超低温にすると電気抵抗がゼロになる物質もあります。なぜ同じ物質なのに、ある条件の下でその性質が変わるのか。そうした物質の仕組みや原理を追究することが物性物理学の役割です。
 私は、物性物理学の中でも、特に二次元電子系を中心的な研究対象にしています。通常、電子は三次元の空間上を運動しますが、ある一定の条件を与えて平面上だけで運動させると、通常とは異なる不思議な性質を示すようになります。例えば、私が大学院生時代に研究していたMOSトランジスタ(※3)というものがあります。半導体の上に絶縁体をはさんで金属を付けてプラスの電荷をかけると、電子はマイナスなので引き寄せられ、半導体の表面だけを動くようになります。ここに強い磁場を与えると、通常「連続的」に変化していくエネルギーが、「不連続」に増加するようになるのです。

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写真1 1974年に安藤教授が書いた、MOSトランジスタにおける磁場と電圧の関係を表す計算式。その後の電子装置の発展に大きく寄与した。

  この二次元電子系のうち、ここ十数年来、私が特に力を入れて解明してきたのがカーボンナノチューブ(※4)です。極薄のグラファイト(黒鉛)(※5)でできたナノメートル(10億分の1メートル)の筒状の物質で、鋼鉄の数十倍の強さがありながら、しなやかで軽く、耐久性にも優れています。1991年にこの物質が発見されたとき、「これは面白いことが起こるかもしれない」と思いました。大学院生時代にグラファイトについても研究していた私は、薄いグラファイト層が不思議な性質を示すことを知っていたからです。
 そこで、研究に着手すると、これまでの物質にはない全く新しい性質を示すことがわかってきました。不純物を加えることなく、構造を少し変えるだけで金属にも半導体にもなるのは、カーボンナノチューブだけなのです。2年後、当時大学院生だった安食博志君と共同で、カーボンナノチューブが置かれた磁場の変化に伴って、金属や半導体になることを理論的に予測しました。この理論は、04年にアメリカの研究チームによって実証されました。

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写真2 計算による「予測」を研究手法とする安藤教授にとって、パソコンや電卓と共に、ノートとペンは今も必需品だ。
用語解説
※2 超伝導  マイナス135℃〜マイナス270℃の超低温において、物質の電気抵抗がゼロになる現象。1911年にオランダの物理学者カマリン・オンネスによって、水銀で発見された。
※3 MOSトランジスタ  60年代に開発された電子素子で、CPUや集積回路に活用される。MOSはMetal Oxide Semiconductorの略で、ゲートの絶縁体に酸化膜を使ったトランジスタ。
※4 カーボンナノチューブ  1991年に発見された、炭素のみでできたチューブ状の物質。六角形の頂点に炭素原子が位置したグラファイト層が継ぎ目なくつながり、竹かごのような形状をしている。
※5 グラファイト(黒鉛)  炭素原子が、層状に集まった結晶。黒色で軟らかく、電気をよく通すという特徴がある。代表的な工業製品である鉛筆の芯は、グラファイトと粘土を混合して固めたもの。

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