指導変革の軌跡 岩手県立西和賀高校
瀬川ひとみ

▲岩手県立西和賀高校

瀬川ひとみ

Segawa Hitomi
教職歴27年。同校に赴任して4年目。進路指導主事。「感謝の心を持って、社会に貢献できる人になってほしい」

畠山賢

▲岩手県立西和賀高校

畠山賢

Hatakeyama Ken
教職歴20年。同校に赴任して3年目。3学年主任。「自律できる生徒を育てていきたい」

VIEW21[高校版] 先生方とともに考える 新しい進路指導のパートナー
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就職後の離職率の減少を目指し地元就職への意識付けを徹底

 次に着手したのは進路指導の改革だった。最も大きな課題だったのは、就職した生徒の卒業後の高い離職率だった。卒業生の約半数は就職者で、更にその半数が、東京など都市部へ就職していた。しかし、都市部で働いていた卒業生は、5月の連休明けには仕事を辞めて、地元に戻ってきてしまう場合が多かった。
 そこで、同校が取った方針は「地元への意識付け」だった。就職しやすいという安易な理由で都市部に送り出すのではなく、自宅通勤できる西和賀町や北上市の企業を強く勧める就職指導への転換を図ったのだ。進路指導主事の瀬川ひとみ先生は、その狙いを次のように説明する。
 「十分な職場体験や業務知識もないまま入社するために、卒業した生徒は想像と現実のギャップに戸惑いを覚えていました。加えて、初めての都会暮らしによる孤独、通勤のストレスなどに耐えきれず、心ならずも故郷に舞い戻ってしまう。就職先が自宅から通勤できる地元の企業であれば、保護者が物心両面から支えてくれます。少々つらいことがあっても、支えてくれる人が周りにいれば、仕事のストレスにも耐えられるでしょう。更に、目的意識がなく就職するのではなく、『地元の活性化のために働く』という使命感を持たせられるのではないかと考えました
 若者の定住は、地域の要望でもある。西和賀町は、住民1人当たりの地方債残高が岩手県内でも高額であり、高齢化率40%を超える過疎と超高齢社会の町だ。若者が地元に残ってくれるかどうかは、同町にとっても切実な問題だった。
 「地元への意識付け」は、進学についても同様だ。進学先自体は県外であっても、大学卒業後は地元に戻って就職するよう意識付ける。そのため、大学・学部選びも「とりあえず進学」ではなく、高齢化に対応するために医療や福祉分野に進む、地元の経済発展を図るために経営学や地域社会学を学ぶ、地元に根差した教育を実践するために教育学部に進むなど、将来、地元に貢献することを視野に入れた大学選びを意識させている。
 「本校には、経済的な理由から大学進学に否定的な保護者もいます。保護者に進学を納得してもらうためにも、大学卒業後の就職を視野に入れた指導が欠かせません。生徒にとっても、学力的に厳しい状況からのスタートになるため、『とりあえず』という安易な理由では、厳しい課外講座や自宅学習に耐えられないでしょう。明確な目的意識や使命感を持たせることが、大学受験に対する意欲を高めるのです」(瀬川先生)
読書記録「私の生きる道」
 同校は、進路指導の一環として、3年次の夏休みに志望にかかわる新書を1冊読み感想を書くレポートを課している。テーマは「私の生きる道」。進路目標を達成するためには、進学や就職をする動機や意欲を強く持ち続けられるよう、「なぜ進学・就職するのか」を常に自分自身に問い、納得できる答えを見いだすことが重要だ。生き方の指針となる新書を読み、感想をまとめ、他者に発表させる活動を通して、その答えを模索させる。レポート作成の過程で志望理由がより明確になるため、推薦入試、AO入試、就職試験における志望理由書や面接にも応用できるという。
 レポートは、すべて生徒の顔写真入りで文集としてまとめられ、卒業前に配布される。

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