「データで考える子どもの世界」
第1回 小学校英語に関する基本調査(教員調査)
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 2.小学校英語の意義とは

 ここまでは、我々の調査結果からみた小学校英語の実態について述べてきましたが、以降は小学校英語の重要性やその意義について述べたいと思います。


(1)小学校英語のこれまでの流れ
 

 公立小学校での英語教育は、国際化が急速に進む中、当初は産業界の要請を受ける形で検討が始められ、既に20年がたちました。1992年から研究開発学校での実践研究が始まりましたが、それらの学校の研究成果は、残念ながら汎用性を持つものではなく、どこの学校でもすぐにそのまま実践できる内容ではありませんでした。

 その後、2002年から新学習指導要領の実施に伴い、「総合的な学習の時間」を使った英語活動がどの学校でも可能になりました。そして2006 年3月、中央教育審議会の外国語専門部会が「小学校5年からの英語必修化」を提言しました。正式に決まれば、2010年から全国の公立小学校で5年生以上が全員英語を学ぶことになっていましたが、その後、いじめ問題、高等学校の必修科目未履修問題などが明るみに出たことが影響して、中央教育審議会での最終答申が出ないまま、今日に至っています(2007年3月現在)。実施時期については、遅れる可能性が出てきましたが、教育課程審議会では、既に小学校からの英語教育の必修化について、外国語専門部会の答申通りの報告が承認されていますので、小学校英語導入の方向性は変わらないものと思います。


(2)学校による違いと教員研修の重要性
 

 このように、小学校で英語をやるべきだ、という風潮や意見は強まってきているものの、まだ正式な教科となっていないために、何を教えるのか、誰が教えるのか、教材はどうするのか、という根本的な問題について、公教育として統一されたものがないまま今に至っています。その結果、今、どういうことが起こっているかというと、熱心に独自の英語教育に取り組み、成果を上げている自治体があるかと思えば、ほとんど成果が上がっていない学校も多い。つまり、調査結果からもみられるように、学校間の格差が非常に広がってきています。必修にすることで、少なくとも5 年生以上は、学校間の格差をなくすことが一つの大きなねらいですが、それによって、小学校の英語教育を、汎用性のあるきちんとしたものにしていく必要があります。

 こうした取り組みを進めていくにあたっては、小学校の先生たちは英語を教えることを前提に教員になったわけではないので、教員への研修をきちんと整えなければいけません。ALT や日本人の英語指導者とのティーム・ティーチングをどう生かすかも含めて、研修についてはそれぞれの地域の教育委員会がきちんと方針を決め、プログラムを作っていく必要があります。また各学校も教育委員会に任せるのではなく、主体的に英語教育に取り組むことが大切です。


(3)英語の重要性の高まり
 

 なぜ小学校に英語が必要なのか。私は大きく二つの理由があると思います。一つは、世の中、世界の流れです。良い悪いは別として、今は英語の力がないと、国際社会で主張していくことができません。EUなどでは、三言語主義が主張されていますが、それは、母語、近隣諸国の言語を一つ、それに、近隣諸国以外の人とコミュニケーションをするための英語、です。日本人も、お隣の韓国や中国との今後の関係を考えたとき、韓国語や中国語を学ぶ必要性が高まっていくでしょうし、それらの言語の教育をもっと盛んにしていかなければなりません。しかし、日本には、年間670万人以上の外国人が訪れていますし、約1700万の日本人が海外に出ていっています(平成16年)。そうなると、単に近隣諸国の言語のみならず、世界中の人とコミュニケーションできなければなりません。そして、その時に必要となるのは、現在、国際語として使われている英語です。特に、20年、30年後の世界を考えたとき、日本の子どもたちが大人になった時には、どうしても英語ができなければ日本人は世界から取り残されてしまうでしょう。

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