教育現場の挑戦 「個」を育てる授業づくり

VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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聞いている子どもの思いも探っていく

 堀川小学校の授業でもう一つ特徴的なのは、「聞く力」を大切にしている点だ。「ごんぎつね」の授業で、○○君の発言を聞いた□□君が語り出したように(図2)、子どもは黙ってクラスメイトの発言を聞きながら、頭の中ではしっかり考えをめぐらせている。題材の読解からは一時的に脱線しているように見えても、最終的には登場人物の気持ちをより深く考え、感じ取る授業に発展している。
▼図2 4年生国語の「ごんぎつね」を題材にした授業から
先生 「ごんは、どうして兵十に贈り物をし始めたんだろう」
○○君 「ごんは、人の事情を知らずに悪いことをしたと思ったんだと思う」
先生 「○○君もそう思ったことあるの?」
○○君はしばらく口ごもって話しにくそうにしていた。長い沈黙の間も、先生やクラスメイトはじっと耳を傾け、○○君を見守る。やがて○○君は、少しずつ自分の家族の体験を話し始める。発言中は明るく振る舞っていたが、気持ちを全部出し切った途端、泣き出してしまう
□□君 「ぼくも○○君の気持ちがわかる。ぼくは……」と言って、自分の体験を話し始める
  研修でも、発言をした子どもの内面だけでなく、発言を聞いていたほかの子どもたちの内面も話し合う
  「聞くという行為は、決して受動的ではなく能動的な活動です。私たちは『話し合い=聞き合い』と捉え、主体的に聞ける子どもを育てることを目指しています」(大岩校長)
  そうした考えがあるからこそ、発言の少ない子どもに対して、教師が発言を強要することがないのだ。
  教師は子どもが提出したノートを読んだり、授業後に子どもと話したりして子どもの考えを把握し、その子どものまだ言葉にならない思いを解きほぐして発言できるように整理していく。その結果、発言は正解・不正解に関係なく受け入れられるという安心感が教室に生まれる。子どもたちは堂々と発言でき、聞き手は長時間に渡っても黙って聞き、じっくり考えることもできる。そのことが、子どもたちの考える姿勢を深めている、ともいえるだろう。
  こうした子どもたちの姿は教師に自信を与え、一丸となって研究を進めていく組織力にもつながっている。力強さが感じられる堀川小学校の実践だが、大岩校長は次の課題に、教師自身の「人間力」の向上を挙げる。
  「追究予測力を更に高めていくことが今後の課題です。人は自分の経験の幅でしか物事を捉えられません。だから、子どもの発言をより豊かに捉えるために、教師自身が自分をより高めていかなければならないと思っています」(大岩校長)

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