FDの成果を測り
教学分野に特化したIRを推進

　立命館大学が教学分野のIRに着手した背景には、2008年４月施行の新大学設置基準がある。育成したい人材養成像の明確化、人材養成像との整合的なカリキュラムの策定、成績評価基準の明示化、組織的なFDの実施などが具体的に規定され、認証評価に則った教育活動の執行が求められるようになった。
　この基準改正の意図を実現するためには、まず、教職員の数値目標やPDCAマネジメントサイクルに対する抵抗感を取り除くことや、評価に必要なデータを効率的に各部局から収集する仕組みをつくることが先決となる。立命館大学では比較的容易に実行に移せたという。その背景には、1960年代から４年に１度、理事や教職員、学生が一堂に会して「全学協議会」を開催し、各部局が行動目標や達成目標を策定、文書を作成してきたことが挙げられる。
　さらに、2002年度には、教学分野における自己点検・評価の仕組みづくりもスタートした。これは、大きく３段階に分かれている。第１段階は2002〜2004年度で、主要なテーマは「先進的教育実践作り」だ。これは、教職員が教育力をより高めるための授業を提案・実践し、先進的と認められた授業実践に対して、大学が経費の補助を行うもの。先進的な授業の成果とともに、課題も全学で共有された。
　第２段階は、2005〜2007年度の「教育力強化の取り組み」だ。各学部が到達目標や行動計画を策定し、数値目標の達成度によって予算を付けるようにした。教学部の浅野昭人次長は「自ら目標を立て、それを達成しようとする意識の醸成につながった」と成果を評価する。

　第３段階として、2007年度から取り組んでいるのが、教育改革総合指標・行動計画（TERI：Total Educational Reform Indicator）だ。教育の質保証、大学の個性化や説明責任など、社会的要請に応える取り組みをPDCAマネジメントサイクルの中で企画・実施・評価し、FD活動の成果を包括的に評価する。
　立命館大学では、個々の授業改善はもちろん、カリキュラム設計や学習支援活動など、教育理念や目標を実現するために学部・研究科が日常的に行っている教育改善活動のすべてをFD活動と位置付け、同センターが組織的に支援してきた。しかし、効果の検証は必ずしも十分ではなかったという。
　従来、FDの成果は、教職員の研修会への参加率・満足度や「学生授業アンケート」から分かる学生の満足度・理解度などで測ることが多かった。TERIの開発を主導してきた教育開発推進機構の沖裕貴教授は、「本当に大切なのは、FD活動の結果、学生にどのような力が付いたのか、組織がどう変わったのかという点だ。教育活動の成果、組織のマネジメント能力を、包括的に評価・検証する仕組みが必要だった」と述べる。
　TERIは経営学で用いられる能力成熟度モデル（CMM）理論をベースにしている。「良い成果は良い組織マネジメントによって生み出される」という考え方に基づいて、組織マネジメントの「成熟度」を検証する評価モデルだ。組織の成熟度を評価することにより、個々のFD活動が果たした教育効果および組織の変容を検証する。
　特徴の一つは、具体的な達成目標を明記し、PDCAマネジメントサイクルによって目標の達成状況を管理している点。学部の理念・目的→教育目標→教育課程→授業設計・実施→成績評価と検証していく過程で、育成したい具体的な人材像の明示、体系的・整合的なシラバスの保証、適切な授業形態や方法、授業配置、客観的かつ厳格な成績評価を実現する。
　もう一つの特徴は、「成熟度」のほかに、就職率や志願倍率をはじめ学生授業アンケートや卒業生調査、学生実態調査などの「結果指標」をIR機能に組み込める点だ。成熟度は組織の質的な変容を示す定性的指標だが、結果指標という定量的データをリンクさせ、客観性を高めている。