IR 数値はこう読み解く

秦敬治

はた・けいじ

私立大学で財務担当職員を20年間経験し、2006年から現職。愛媛大学で教育企画室教員、財務専門委員会委員、リーダーズ・スクール責任教員等を兼務。教育学博士。専門は教育経営学(高等教育経営)。

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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IR 数値はこう読み解く
愛媛大学経営情報分析室准教授  秦敬治

第1回 退学率

「退学率が高い」は無条件に悪いことか?

IR(Institutional Research)をテーマに、大学の運営の改善に迫る新シリーズ。
IRは「大学の諸活動全般の情報を集めて客観的に分析し、組織の企画・政策策定・意思決定を支援する」
という重要な役割を担っている。初回は、世間をにぎわしている「退学率」の読み解き方を取り上げる。

積極的退学と消極的退学の把握

 日本の大学の退学者数、退学率総括データは、残念ながら公表されていない。読売新聞が行った調査*1では、2007年度1年間の全大学の退学率平均は2.5%*2であった。2007年度の学部学生数は約251万人*3であるから、大ざっぱに見積もると、全国の大学で6万人程度が退学したことになる。
 一般的に退学率だけを取り出しても、効果的な経営指標として利用してIRの役割を果たすことは困難である。IR的視点で見ると、(1)退学率の裏側に潜む退学理由、(2)大学の学生に対する関与(学生支援や学生指導)の度合いと効果、(3)大学に対する満足度、を分析し、改善策を提案することが重要となる。
 退学率の増減は、大学関係者にとって非常に興味のある情報の一つであり、その理由を明確に把握することが重要である。大学生の主な退学理由には下の表のようなものがある。
 この中で、「就職・就職準備」「進路変更(他大学受験・入学、他大学への編入学、専門学校受験等)」は、自らの夢や目標に向かう前向きな退学であり、積極的退学といえる。それ以外は、自らの夢や目標とは一致しない退学であり、消極的退学と位置付けられる。

大学生の主な退学理由
*1  2008年4〜6月に全国の大学を対象に行った「大学の実力――教育力向上への取り組み」に関するアンケート。回答数は499校。
*2  2008年7月20日に掲載された退学率の平均は2.6%であったが、同年8月5日に2.5%という修正値が掲載された。
*3  文部科学省の2007年度学校基本調査(対象756校)より。

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