大学ブランディング成功への道

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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後発者にとってのポジション確保の難しさ

 今回のケーススタディーには、日産自動車が2008年にコカ・コーラと組んで行った共同キャンペーンを取り上げたい。
 日産は広告宣伝費だけでも1500億円を超える強大なマーケティングパワーを誇る。これだけのパワーがあれば、いかようにも出会いをデザインできるように思われる。しかし、日産は「多様な人々との出会い」をデザインするために、あえて他社とのコラボレーションを選択した。大企業でさえ、従来の集まりを超えた多様な属性や感性の人々を取り込み、新しい価値を創造するためには、従来の戦略を見直さざるを得ない時代なのだ。
 日産は創業当初から「技術の日産」と呼ばれ、その技術志向には定評があった。購入者の主要な関心は「車のメカニズム」「走りの性能」であった。日産と日産ファン(主として男性で、機械や走りへのこだわりといった自分の趣味を満足させるために日産車を買う)は強固な「集まり」を形成し、それが日産ブランドの強さを支えていた。ただし、この集まりの構成員は、日産の社内も購入者も主に男性で、年齢・嗜好などが似通い、多様性に欠ける面があった。
 そしてバブル崩壊以降の日産は、社会全体のエコ志向と、購入者のファミリー志向(購入に際して自分の趣味よりも家族の合意を優先)という価値観の急激な変化に取り残されてしまった。エコという関心にはトヨタ自動車がプリウスを、家族という関心にはホンダがオデッセイ、ステップワゴンを他に先んじて価値提案し、自動車業界にはそれまでなかった(多様性のある)関心の集まりをつくり出した。
 人間の認知は恐ろしい。トヨタやホンダのような先行者が人の心の中に一定のポジションを獲得すると、後発者がいかに情報発信しても、そのポジションに割って入ることが極端に難しくなるのだ。

*プリウス® 、オデッセイ®、ステップワゴン®

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