調査室長コラム Ⅱ

第16回 中学生のつまずき

ベネッセ教育研究開発センター 教育調査室長 木村治生 (2009/8/24更新)

中1ギャップの実態

 中学生の34人に1人が不登校――そんなデータが、文部科学省から発表されている。1クラスに1人は、不登校の生徒がいる計算だ(2008年「学校基本調査」速報、数値は2007年のもの)。

 これに対して、小学生の不登校は、298人に1人である。母数には低学年も含まれているので、高学年ではもっと高い割合になるが、それでも中学生と比べるとはるかに少ない。

 このように、小学生では見られなかった問題が、中学校に入ったとたんに現れることを指して、「中1ギャップ」と呼んだりする。不登校は、その典型的な例だ。図1は、その数と比率を学年ごとに示したが、小6から中1にかけて3倍に跳ね上がる。これだけたくさんの不適応が発生するのだから、中学校としては放置できない問題だ。

図1:不登校児童生徒数と全児童生徒に対する比率

図1:不登校児童生徒数と全児童生徒に対する比率

出典)文部科学省「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」、「学校基本調査」(いずれも2008年)

*図は『教員養成セミナー』掲載時のものから新しいデータに差しかえた。

なぜ「中1」か?

 それでは、なぜ中1ギャップは生まれるのだろうか。いくつかの原因が考えられる。

 第一に、学校内の環境が変わることが挙げられる。小学校までは学級担任が学習だけでなく細やかに生活面のケアを行うが、中学校に上がると教科担任制になり、心理面でのサポートは薄くなる。また、小学生のころとは違って、先輩との関係も厳しくなる。このように、小学校と中学校では文化が異なるため、うまく馴染めなかったり、ストレスが高まったりする。そんなことから、友だち関係のトラブルも起きやすく、中1は最も「いじめ」が多い学年でもある。

 第二に、生活の変化や乱れといった要因が考えられる。中学生になると、多くの子どもが部活に入る。このため、学校からの帰りが遅くなりがちになる。また、行動範囲が広がるため、遊びの空間も変わる。繁華街に行ったり、カラオケやゲームセンターで遊んだりする子どもが増えるが、そうした消費行動を携帯電話などのツールが促進する。このような生活の乱れは、中1を起点として生じやすい。

 第三に、学習面での変化が大きな影響を与えている。生活の乱れと連動して、中1では家庭学習を「しない」子どもが増える。いわば、学習離れを起こしやすい学年なのだ。学習内容は難しくなり、十分に理解できないことがあるため、勉強に対する意欲も維持しにくくなる。

 第四に、子ども自身の成長や発達の問題がある。中1といえば、多くの子にとって思春期の真っただ中である。自分に対する関心が高まり、「自分は何者か」「自分はなぜ勉強するのか」といった実存的な問いを考えるようになる。そのこと自体は悪くないのだが、周囲がうまくサポートできないと精神的に不安定になりやすい。中学校に入ってから、悶々とした日々を過ごしたり、学校にうまく適応できない自分を感じたりした読者も多いのではないだろうか。

学習に対する意識の変化

図2:学習に対する意識

図2:学習に対する意識

*注:数値は「とてもそう思う」と「まあそう思う」の合計の比率(%)

出典)ベネッセ教育研究開発センター「第1回 子ども生活実態基本調査」(2004年)

 ここでもう少し、学習に対する子どもたちの意識の変化を詳しく見てみよう。図2は、「上手な勉強の仕方が分からない」と「どうしてこんなことを勉強しなければいけないのかと思う」の2項目について、肯定した割合(とてもそう思う+まあそう思う)を学年ごとに示している。いずれも、学年が上がるにつれて肯定率が高まる様子がわかるが、やはり目につくのは小6から中1にかけての変化である。学習方法がわからない、学習目的が見えないという悩みが、中学校に入ると急増する。

 中1は、学校に対する不適応も生じやすいが、学習のつまずきも起こりやすい学年だということがわかる。両者は関連しているのかもしれない。とにかく、学習内容は抽象的になり、いままでは出てこなかった概念がたくさん出てくる。また、授業の進みが速いので、本来は家庭で復習をしないと理解ができないままになる。さらに、基礎的な事項として覚えなければならないことが、各教科で増える。それらの習得程度をテストで定期的に測られ、客観的に(厳しく)評価される。このような経験は、小学校時代には少ない。

段差を埋める工夫が必要

 そこで、小・中学校の連携が重要ということになる。しかし、行政(教育委員会)が意識的に連携を図っている地域を除くと、うまくいっているところは多くないようだ。小学校の教員に言わせれば、「小学校時代はあんなに活発で、何でも意欲的だった子どもたちがなぜ…」と感じるし、中学校の教員からは「小学校時代にきちんとしつけたり、基礎的な学習内容を身に付けたりしてくれないから大変…」となる。

 とはいえ、このまま小・中学校間の段差が大きいと、子どもたちにとっては不幸だ。中1ギャップはますます増える。教員の相互交流やカリキュラムの工夫、中学校の体験入学など、仕組みとして段差をなだらかにすることが必要である。さらに、個々の教員にも、子どもの発達に対する理解を深めたり、学校段階による指導の違いを把握したりしておくことが、いっそう求められるようになるだろう。


 グラフのポイントはココ!

(1) 中学生になると不登校が増える。現在では、中学生の34人に1人が不登校になっている。
(2) 学習上の悩みも、小6から中1にかけて増加する。中1は学習と生活の両面でつまずきやすい学年である。

※初出:月刊「教員養成セミナー」2008年12月号(時事通信社)


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