溝上　ここでは、学生が企画・運営に関与している教育改善活動に焦点を当ててみたいと思います。というのも、大学改革には、企画・運営には関与していなくても学生が主体となっている活動例は多いからです。例えば、高知大学の「Ｓ・I・Ｓ」（学生による高度情報化支援組織）では、学内の情報化支援はもとより、地域の小・中・高校などの高度情報化に対しても積極的な支援や交流活動を行っています。大学公認の学生団体として、大学改革の大きなテーマの一つである地域連携に大きく貢献しているわけです。
　いくつかの大学が実施している学生のプロジェクトに対する研究支援も、学内の活性化を図る大学改革の一環に位置付けられます。これらはいずれも学生の主体的な活動を大学がサポートしているものですが、学生が大学の組織的な教育改善活動に関与しているとは言い切れません。大学の組織的なマネジメントに学生を参画させる活動こそが、学生を巻き込んだ大学改革といえるのではないかと思います。

溝上　大学内の活動は大きく二つに分けられると思います（図表）。

　一つは、授業科目の改善や教育内容の見直しなど、ファカルティの根幹部分に関わる正課の活動に学生を巻き込んでいるケースです。具体的には、学生と教職員が一緒になってシラバスを改善したり、学生が提案する授業科目を新設したり、学生が教え合う仕組みを構築したりといった活動が挙げられます。
　岡山大学を例にとると、学生主体の組織が大学の正規のＦＤ組織として位置付けられており、シラバスの改善や授業評価アンケートの実施などに関わっているようです。学外での各種会議にも学生が正規のＦＤメンバーの一員として出席するなど、正課に関わる活動の好例といえるでしょう。
　もう一つは、正課外での活動に学生を巻き込んでいる例です。先ほど挙げたプロジェクト研究支援をはじめ、オリエンテーションや入学式など大学の公式行事の企画や運営に学生を参加させたり、かなりの権限を与えて任せたりするケースがこれに当たります。キャリアセンターなどが行う就職支援、国際交流を目的とする留学生支援などに学生を巻き込む例も含まれます。正課外とはいえ、これらの活動は大学の重要な教育機能の一部であり、正課における教育改革を側面から支援するという意味を持っています。

溝上　学生を巻き込んだ大学改革というならば、やはり正課の活動が核になるべきだと思いますが、なかなかうまくいかないのが現実です。学生の意見がファカルティに及ぶことに拒否感を持つ教員も少なくなく、また大学の意思決定システムに、一過性の構成員に過ぎない学生の声を反映させることの難しさもあるからです。
　逆に、正課外の活動に学生を巻き込むのは比較的簡単です。正課外の活動は基本的にはイベント系が多く、現代の学生はこうした活動には積極的に参加してくれます。イベント系の活動の場合は、基本的に学生に任せておいてもそれなりの成果が上がりますし、学生の満足度も高いのが普通です。
　正課でも正課外でも、うまく学生の力を引き出せば大きな効果が得られるのですから、どちらを選択するかは、最終的に各大学の判断になるでしょう。