文化財ＩＴ化プロジェクトには、三つの柱がある。
　１番目は、国指定史跡・永福寺の画像による復元だ。永福寺は、源頼朝が鎌倉幕府を開いた時に建立した三大寺の一つで、現存するのは鶴岡八幡宮のみ。鎌倉市が83〜96年の発掘調査で永福寺跡の保存・整備を行うと同時に、多くの発掘データを保存してきた。これを基に、長澤研究室が３ＤのＣＧによる寺の復元を目指し、04年３月に第一弾を完成させた。
　しかし、発掘時のデータはあまり精度が高くないため、歴史的建造物の専門家からアドバイスを受けながら、その後もバージョンアップを重ねている。05年からは、データから精度の高い設計図を起こし、それを基にＣＧを作るという試みも始めた。
　第二の柱は、世界遺産登録推進を目的にした市のＨＰの制作で、市側の要望に沿って学生が制作・運営を担当している。「システムの専門家でない人の要望を的確に汲んでものづくりをすることで、技術者の仕事というものを学んでほしい」と、長澤教授。
　第三の柱は、05年度からスタートした「鎌倉デジタル考古博物館」（仮称）だ。市が発掘した文化財すべてを収蔵・展示するには、博物館の数やスペースが限られている。そのため、将来、世界遺産に登録されても、世界中の人に見てもらうための環境は十分ではない。そこで、特に貴重な文化財を３Ｄの画像に変換し、ウェブ上に展開するデジタル博物館をつくろうという構想だ。長澤教授によると、３Ｄ画像によってどの角度からでも見られる仕様のデジタル博物館は、日本ではまだ少ないという。
　教室での授業とは異なる厳しさを味わうことができるこれらのプロジェクトが、教育的な効果をもたらしているようだ。永福寺復元ＣＧでは、処理速度を上げるため詳細部分を省略したところ、クオリティについて鎌倉市から注文がついた。「データ量を抑えて質感を高めるための工夫が、技術力を高める」。完成度を高めるため、学生が自発的に始めた歴史的建造物の勉強会についても、「文化や歴史への興味が技術者としての幅を広げる」と評価する。
　長澤教授は、「地域の側は無償で学生のマンパワーを借りられるし、学生側は生きた教材で学ぶことができる。双方にメリットをもたらしてこそ、大学と地域が連携する意義があると思う。今後もこのようなプロジェクトに力を入れたい」と話した。