特集 ―学校教育法改正を入り口に―教員組織をどう活性化するか

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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米国における制度の多様性

 中教審や総合科学技術会議での議論では、アメリカの大学のテニュア制度が参照された。テニュア制度はアメリカ的な制度であり、それを理解することは容易ではない。第一に理解すべきことは、「テニュア制度は多様である」という事実である。
 アメリカの大学には、多様な教育研究スタッフが存在する。プロフェッサー、アソシエイトプロフェッサー、アシスタントプロフェッサーは、よく知られたスタッフだ。これら以外にも、レクチャラー、インストラクターなどの教育スタッフ、リサーチプロフェッサー、クリニカルプロフェッサーなどの研究や医療のスタッフ、さらに、リサーチフェローやティーチングフェローなどと呼ばれるポスドクもいる。呼称は多様で、大学によっても異なる。
 このように多様なスタッフを理解する上で重要なのが、その雇用形態である。スタッフは、テニュアを持つ者と持たない者とに二分される。後者はさらに、将来テニュアを獲得する可能性があるスタッフと、その権利がないスタッフに分けられる。将来テニュアを獲得する可能性のあるスタッフは、一定の期間奉職した後に審査を経て、テニュアを獲得することになる。
 テニュアを有する職とテニュア審査を受ける権利を有する職とによってテニュアトラック(大学ごとに呼称は異なる)を構成し、ここに属する教員が教育研究の中核を担う。リサーチプロフェッサー等の資格付きプロフェッサーは、テニュアトラックに乗っていないノンテニュアトラックの職である。
 テニュア審査とアソシエイトプロフェッサーへの昇進とが一致している大学もあれば、そうでない大学もある。テニュア審査を受けるまでの期間は大学によって異なる。テニュア選抜の厳しさも大学ごとに違いがある。これら期間の設定や選抜率は大学の人材獲得戦略に依存し、有力大学は条件が厳しくなり、人材獲得が困難な大学では条件を緩める。このような仕組みをテニュアトラックシステムという。
 テニュアは存在してもテニュアトラックが明確でなく、テニュア審査を受けることを前提とした職が明確には存在しないケースもある。そこではテニュアトラックシステムと呼ばない場合も多く、任期付き教員と終身雇用の教員が混在する日本の大学の任用制度に近い。テニュア制度があっても選抜が極端に厳しい場合も、実質的にはテニュアトラックがないのと同じである。
 アメリカの大学におけるテニュア制度の特色の一つは、テニュアトラックの職に就く者には、就任時に所属組織からスタートアップの資金が提供されることである。これを踏まえ、わが国のテニュア制度の導入に関する議論でも、若手教員のためのスタートアップ資金が必要だと指摘されている。


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