これは、研究活動の活性化のために制度の導入を議論している日本とは逆行した傾向といえる。アメリカの有力大学が目指す方向は、「伝統的な終身雇用の教員と任期付きの多様な教員、リサーチフェロー等の混成」という日本の大学の姿と大きく変わらない。
アメリカの動向からいくつかの教訓を導き出せる。第一に、研究を重視するとディシプリンの教育活動に基礎を置くテニュア制度が形骸化する傾向にあること。第二に、テニュア制度は、大学間の人材の流動性向上に逆効果になる恐れがあり、ひいては研究活動の活性化で期待する成果を上げられない可能性があること。第三に、一方で、テニュア制度の廃止が若手の流出を招く可能性があり、研究活動の活性化にとってマイナス面もあるということ。
テニュア制度の核となるのは、テニュア審査を受ける権利を有するノンテニュアポジションの存在である。これを導入しない限り、従来の終身雇用と何ら変わらない。日本では、「助教」をテニュア審査待ちのポストにする議論があるが、それも容易ではない。ほとんどがテニュアになれるなら従来の終身雇用の助手制度と変わらず、硬直化をもたらす。逆にほとんどがテニュアになれないとすれば、「助教」はポスドクやリサーチプロフェッサー等と実質的に同じになる。制度は形骸化し、終身雇用の割合が低下し、結局は若手の流出をもたらす可能性がある。
若手研究者の自立という目的のためなら、テニュア制度は特に必要ない。「助ける」規定を廃止し、組織としてスタートアップの支援に責任を持つべきである。
研究の活発な大学ではポスドクが大幅に増加し、任期制でなくても若手の流動化は進んでいる。ポスト・ポスドク段階の「助教」にも任期をつければ、人材が流出する危険性がある。このような大学、分野では、テニュア制度は慎重に設計すべきだ。逆に、伝統的な組織で研究活動の変化に対応しにくく、流動性が低い組織では、目的と大学の特色に合ったテニュア制度を導入する意味があるだろう。
テニュア制度の導入は、各大学、各分野の状況、組織編成原理などに配慮して検討すべきで、一律に進めるべきものではない。国としてテニュア制度のスタートアップ支援をすることにも、慎重さを求めたいところである。
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