特集 ―学校教育法改正を入り口に―教員組織をどう活性化するか

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【現場レポート】東京工業大学

他大学との人材交流制度で若手教員に「武者修行」の機会

「純粋培養」を問題視する3大学が検討・合意

 東京工業大学は2006年度から、名古屋大学、大阪大学との間で、工学系の若手教員を相互に交流させるプログラムを始める。他大学の教員組織に加わり、研究・教育や運営に携わることで、幅広い視野を持つ将来のリーダーを育成することが狙いだ。
 大学における研究者育成は、従来は学科や講座といった小さな組織単位の中で、純粋培養的に行われることが多かった。プログラムの発案者で大学院工学系長の三木千壽教授は、「こうした教員の純血主義に対する問題意識が提案の根底にあった。一つの組織の中だけで育つと、どうしても考え方が小さくまとまりがち。いい人材はできるだけ外に出して経験を積ませることが重要」と言う。
 2年前、旧7帝大と東京工業大学の工学部長らで組織する8大学工学部長会議後の懇談会で、人事交流を提案。同じ問題意識を持つ2大学と意見交換を続け、実施に合意した。
 交流するのは、東京工業大学の理工学研究科と、名古屋大学、大阪大学の各工学研究科。毎年度、最低2人の若手教員を、原則として3年間派遣する。どの大学も、相手方の両大学に最低1人は送り出すことにしている。派遣終了時に45歳以下である助教授または講師が対象だ。いったん所属大学を退職して派遣先の大学に勤務し、3年後に派遣時の地位のまま復職する。
 ポイントは、3年後に必ず元の大学に復帰することが条件となっている点だ。三木教授は「戻ってくることが確実だからこそ、どの大学も将来有望なエースを派遣できる。優れた人材を共同で育成しようというシステムだ」と説明する。

  派遣教員は、各大学で候補者を絞り込んだ後、3大学でつくるマッチング検討委員会で最終的に決定する。派遣先は本人の希望に基づいて決められる。受け入れ側は、派遣される人材についての注文は一切出さない。送り出す側が将来のリーダー候補と見込んだ教員を選ぶことが前提だからだ。
 通常の転勤では、専門領域を変えることは基本的にない。この人事交流プログラムは、研究や教育の幅を広げることが目的なので、「派遣先では自分の専門とは異なる領域の研究に従事することが望ましい」と、三木教授は言う。東京工業大学では、助教授として研究が一区切りついた段階か、助教授になったばかりで新しいテーマに取り組もうという段階での派遣を考えているという。
 教員は、派遣先でも本来の所属大学と同等の待遇を受けると同時に、義務も同じように引き受ける。ただし、派遣1年目は授業の担当を免除され、卒研生や院生の論文指導のみ担当する。2年目からは学部や大学院の授業を持つ。3年間の派遣は、担当した院生を課程修了まで育て上げるためという期間設定でもある。学内委員会など、大学運営への参加も義務づけられる。「お客さんとして行くわけではない。教育、研究、学内運営のやり方は大学によってすべて違う。異なる環境の中で大きく成長してほしい」。


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