特集 「学士課程教育」の構築

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
  PAGE 21/26 前ページ  次ページ

企業から与えられる課題で解決能力を高める

 3年次以降の教育のコア科目が、ECP(Engineering Clinic Program)だ。グローバルエンジニアの必要条件のうち、主に創造力・問題解決能力、マネジメント力、日本語によるコミュニケーション力を修得させるのが狙い。
 企業から与えられたテーマに基づいて課題を解決するプログラムで、従来の卒業研究に代わるものだ。5、6人のチームで、2年間同じテーマに取り組む。ECPはI(2年次の前期2単位+後期2単位)、II(3年次の3単位+3単位)、III(4年次の前・後期合わせて8単位)で構成される。Iでは、力学、電気、制御などの応用実験と、3次元CADによる設計製図およびその図面に基づくものづくりを行い、3年次以降の本格的なECPへの準備をする。
 ECPのテーマは、「自動車用電動式サイドミラーの設計」「DVD塗装用ディスペンサーの設計」「外科手術用ロボット鉗子の開発」「点滴ミス回避装置の開発」など、企業が実際に直面している課題ばかり。その範囲は、生産技術、メカトロ・ロボティクス、コンピュータサイエンス、マイクロ・ナノテクノロジー、バイオメカニクスなど9分野に広がる。
 ECPでは、企業の専門技術者(工学院大学では「リエゾン」と呼ぶ)と教員が共同で学生を指導する。複数企業のリエゾンによるプレゼンを受け、学生はテーマを選択する。特定のテーマに人気が集中した場合、複数のチームを作って互いに競わせるなど、できるだけ学生の希望を優先する。リエゾンはメールでの指導のほか、月に1度は学生とミーティングを行い、企業の視点から進捗状況に応じてアドバイスする。一方、教員は教育的・学問的な観点から随時助言する。
 どのテーマも現実に発生している課題であるだけに、学生は問題解決に必要な知識や技術が自分に不足していることを痛感することになる。実は、そこにECPの大きな狙いがあるのだという。「必要性を感じれば、学生は自分から勉強する。大学が体系的な専門教育を押し付けるのではなく、学生が自分で選択したテーマに応じて主体的に専門知識を獲得していかざるを得ない仕組み」(古屋学部長)だ。そのため、学生のニーズに応えられるよう多彩な専門科目や周辺領域の科目を設置している。
 企業からは、コストとスケジュールの管理を厳しく求められる。学生はチームリーダーを選び、役割分担を決めて課題に取り組む。その過程で、限られた予算内でスケジュール通りに一定の成果を生み出さなければいけない厳しい世界を体感することになる。
 三浦学長は、「ECPの最大のメリットは、解決しなければいけない課題に圧倒的なリアリティがあるところ。国際工学コースの設置と同時にスタートした科目で、学生は生き生きと課題に取り組んでいる」と評価する。


  PAGE 21/26 前ページ 次ページ
目次へもどる
大学・短大向けトップへ