伝統ある学部を再編するのはなぜなのか。理工学術院長補佐の石山敦士教授は次のように語る。「本学には理工系の学問領域をほぼカバーする学科が揃っている。その反面、組織が巨大化し、一体感を欠いた雑居ビルのようだという手厳しい外部評価を受けた。そのため理工学部の持つ先進性とスケールメリットを保持しつつ、より機動的な教育・研究体制を構築するため、再編することにした」。
とはいえ、３学部に落ち着くまでには、学内で相当な激論が交わされたという。「１学部体制のまま、複数の学問領域に分けたクラスター制にすべきだ、あるいは２学部構成がいいといったように、まさに議論百出の状態だった。かくいう私も当初は１学部派だった」と石山教授は笑う。
石山教授が所属する「理工学術院」とは、教員組織のことで、早稲田大学は04年９月から全学的に学術院体制を敷いている。教員は、必要に応じて各学部・学科や研究科に出向いて教える。「例えば、基幹理工学部で教えている教員が、大学院では先進理工学研究科で指導にあたることも可能となる」。
この結果、それまでは学科ごとに分かれていた教員が連携して、教育・研究面で相乗効果を挙げることができる。対外的な企画戦略や産官学連携なども、これまでよりスムーズに進められるようになるという。
学科を横断して先進的な分野を学ぶ
基幹理工学部は、科学技術を生み出すための基礎学問である数学と、理工系の根幹を成すテクノロジーに関わる機械、情報、電子、材料といった分野の７学科で構成される。今回新たに設置されるのは、応用数理、電子光システム、表現工の３学科。
応用数理学科は、数学と自然科学・各種工学の架け橋として、多様な分野に現れる問題を数学的観点から教育・研究する。電子光システム学科は、電子技術と光技術をベースに、ナノテクノロジーや電子デバイス・光デバイス技術などを身に付ける。表現工学科では、情報と芸術を融合した領域を学び、デジタルコンテンツの制作技術を習得する。
創造理工学部では、人間・空間・社会・環境をキーワードに、豊かで快適な生活環境の創造について学ぶ。例えば、高齢化社会において、高齢者が住みやすい住宅、人間と共生するロボット、電気やガス、水道などのインフラ、若者と高齢者が共同生活を送るコミュニティなどについて考える。
同学部は、建築、総合機械工、経営システム工、社会環境工、環境資源工の５学科で構成される。このうち、機械工学科を母体として誕生する総合機械工学科は、福祉・医療、ロボティクス、環境・エネルギーなど、次世代産業分野で活躍できる技術者を育成する。
先進理工学部は、自然科学を基礎として、物質、生命、システムをキーワードに掲げ、新しい科学技術の創成を担う。電気・情報生命工学科、化学科から名称変更する化学・生命化学科、そして新設の生命科学科と、「生命」を冠する学科が三つできる。これに、物理、応用物理、応用化学を加えた６学科構成となる。
同学部の目玉となるのが「先進融合クラスター制度」だ。これは、一つの学問領域ではカバーできない先進的な分野について、各学科の関連する専門科目を横断的に学ぶことができる仕組みだ。単位数などは未定だが、主として４年生から大学院生が対象となる。
「例えば、創薬科学の分野では、化学的な知識のほかに、遺伝子工学や情報工学などの知識も求められる。この制度は、そうした新しい領域を学ぶための科目群を提示する履修モデルのようなもので、ここで学んだことを大学院の研究につなげてもらいたい」
ほかにも、環境・エネルギー、医療工学、ロボティクス、システムエンジニアリングなどのクラスターを設置する予定だ。
３学部体制で新たなスタートを切る早稲田大学だが、「改革はこれで終わったわけではない」と石山教授は語る。「将来的には生命系の学科をまとめて生命理工学部のような学部が立ち上がる可能性もある。教員組織が学術院という体制に一本化されたことで、時代のニーズに合わせたフレキシブルな改革が可能になった」。
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