特集 全入時代シフトで成功させる大学ブランディング

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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在学生の起用で大学の一員としての意識を高める

 2006年度の入学式は、学内の「近未来プロジェクト」の一つとして企画された。これは「10年後の大学像」を生み出すことを目指し、若手職員を中心メンバーとした部署横断型のプロジェクトだ。世耕弘昭理事長からテーマが示されるたびに、メンバーが選ばれる(図1)。

図表

 入学式プロジェクトは、教学部門のみならず、就職課、総務課、広報課、管理課などから選ばれた総勢10人のメンバーで構成。就職間もない新人から30代までの若手職員が中心だった。新入生に近い世代の意見を反映させるという狙いがあった。
 メンバーのうち4人は女性だ。「近畿大学というと男子学生が多く、バンカラというイメージが強いようだが、今は女子学生が増え、学内の雰囲気もかなり変わっている。それを入学式にも反映させたかった」と中林課長補佐は説明する。就職課の大倉園加氏は「入って3カ月の自分が、プロジェクトのメンバーに選ばれて正直びっくりした。しかし、ほかのメンバーが若手の意見にも耳を傾けてくれたので、率直に発言できた」と振り返る。
 世耕理事長が提示した課題は、「とにかく印象に残る」「学内で行う」の2点だった。「2004年度の入学式から従来型とは違う演出を試みていた。今回は理事長から具体的な指示はなかったので、前年度以上に印象に残る式を作ろうというのがプロジェクトの目標となった」と中林課長補佐は言う。
 演目の内容や順番、会場の演出など、メンバーからはいろいろな意見が出された。「自分たちの入学式を思い出しながら、自分たちが参加したくなるような式を思い描き、気になる点はどんどん挙げていった」と総務課の嶋せいら氏は振り返る。アイデアが出ると、それが新入生へのメッセージとして意味があるのか一つひとつ吟味し、式全体を練り上げていった。予算のかかりそうなものの場合、前年度の実績額以下を総予算として考えた。
 その過程で生まれたアイデアの一つが、在学生によるパフォーマンスだ。学内には吹奏楽部、応援部、チアリーダーと、パフォーマンスにぴったりのクラブがあった。学生部を通して各部に協力を要請すると、快諾してくれた。新入生の前でパフォーマンスができることを喜び、活動の合間をぬって、半年間、合同練習を重ねた。
 「在学生を起用したことで、先輩を含む大学全体で歓迎するというメッセージを新入生に伝えられた。在学生にとっては、近畿大学の一員として教職員と一緒に式を盛り上げ、新しい仲間を迎えるという意識を持ってもらう絶好の機会になった」と、広報課の澤田和典主任は説明する。
 プロジェクトは2005年6月に発足し、10カ月かけて周到に準備した。世耕理事長から途中報告を求められることは一切なく、すべてはメンバーに一任された。中林課長補佐が世耕理事長に途中経過を報告しようとしたが、「当日、楽しみにしているから」と、笑顔で遮られたという。「近未来プロジェクトは、若手職員育成の機会にもなっている。トップが口出ししないことによって、職員の自覚を促す。職員になって日の浅い若手に、近畿大学を良くしていこうという気概を持たせ、実行力を付けさせるトレーニングの場といえる」と中林課長補佐は言う。
 入学式プロジェクトは、新入生、保護者、在学生、そして職員という、大学のステークホルダー同士をつなぐ場になっていたのだ。


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