高等教育行政で、現場主義に根ざした「改行」をどう進めていくか。これを考える上で再確認すべきは、国立大学法人化を契機とする2004年度の組織改編の意味だ。すべての大学改革を支援する「大学振興課」と、新しい国立大学を対象とする「国立大学法人支援課」が設置された。前者の役割は、大学改革のために公私立大学と一層緊密な関係を築くこと。後者は、ワンストップサービスの組織として、自由度を増した国立大学との間で新たな関係を築くこと。いずれも、現場主義の実践なくしては達成できない。
　大学改革は、大学関係者の理解と協力、主体的な取り組みがあって、初めて奏功する。その意味で、国にとっての大学は、ステークホルダーというよりもパートナーというべき存在だ。高等教育局では、このパートナーに向けた、新しい情報発信を始めた。一つは、文部科学省初のメールマガジン「大学改革ＧＰナビ」（注２）だ。大学の優れた実践を応援する各種事業は政策の「目玉」であり、その情報を積極的に発信しようというわけだ。また、分かりにくいとされてきた設置認可制度については、メールで相談を随時受け付け、制度の仕組みをＱ＆Ａ式で紹介するパンフレットも作製している。
　しかし、現場主義の観点からは、改善の余地が大きい。審議会答申や制度改正は、文書の通知だけでは分かりにくく、趣旨が十分浸透していない。審議過程の情報や、答申・改正法令の文言の「行間」の情報、現場からの疑問に答える情報を、もっときめ細かく、積極的に発信する必要がある。例えば、文部科学省から全大学に一斉にメールを送信できる仕組みを作れば、一方的に情報を伝えるだけでなく、大学の意見や質問を機動的に集約し、現場の実情を的確に把握できるだろう。
　職員一人ひとりの自己啓発の努力も欠かせない。大学を訪れて本音を交わす機会を意識的に設けたいが、これには限界がある。そこで、重要なのは想像力だ。小さなサインも見逃さず現場の課題を捉える、自分の仕事が現場に及ぼす影響を考える、限られた直接体験を糧として自分の頭で考える、などが重要だ。高等教育行政に携わる職員であれば、学会への加入や社会人向け大学院への入学なども、想像力をはぐくむ良い体験になるだろう。多様な自発的試みを、職員に期待したい。